百々武さん(写真家)
団地のひとインタビュー 015
僕の子どもたちはUR育ち!
写真家の百々 武さんの作品には、そこに暮らす人々が生き生きとした表情で写っています。撮影する場所にとけ込み、被写体と心を交わす。かつて2年間ほど住んでいた『真美ヶ丘6丁目』を久しぶりに訪ね、秋の団地の風景を撮影してもらいながらインタビューしました。
百々 武さん(どど・たけし)
1977年大阪府生まれ。1999年ビジュアルアーツ専門学校・大阪卒業。1999年イイノ・広尾スタジオ入社。2000年写真家ZIGEN氏に師事。日本の新進作家展「Voyages」東京都写真美術館など写真展多数。写真集「島の力」2009年(ブレーンセンター)、「草葉の陰で眠る獣」2015年(赤々舎)を発行。
ホームページ https://takeshidodo.com/
結婚を機に、実家が近い奈良に転居。その時、この団地に住んでいたと聞きました。選ばれた理由は何だったのですか?
百々:職場は大阪ですが、子育てを考えると、やはり環境の良い場所に住みたいと妻と話しました。民間のマンションもいくつか見たのですが、URの賃貸団地のほうが圧倒的に環境に恵まれていました。それに、子育て中のファミリーも多く、ママ友もたくさんできて、今でも仲良くしてくださっている友達も多いようです。
ああ、ここですね。ここの4階。窓を開けると公園の木々の移ろいで季節を感じていました。懐かしいですね。
久しぶりのかつてのわが家、何か思い出されますか?
百々:ここは自治会のみなさんが一生懸命に活動してくれていました。もちつき大会や絵本の読み聞かせなど、子どももいろいろ参加させていただきましたね。団地では、そういう活動がコミュニティを円滑にしてくれます。僕は、カメラを通して被写体とコミュニケーションし、円滑な関係をつくります。被写体が人ならば、挨拶が重要です。「私がここにいます!」とお伝えする意味もあります。ご近所づきあいも同じですね。相手を意識し、ほどよい距離でお互いに意識していれば、みんなが笑顔になれるように思います。その時が、シャッターチャンスですね!
シャッターチャンスはいい写真を撮る条件ですよね。団地の風景にも撮影しやすい季節があると思いますが、いかがですか?
百々:はい。木々が色づく秋は美しい写真を撮るチャンスだと思います。季節の移り変わりをよく観察して、お気に入りの撮影ポイントを探しておくといいと思います。例えば、この団地の外壁は、すごく特徴があります。うまくフレームに収めることができれば、木々の陰だけでも一枚の絵のようになりますし、木々の色合いと白い建物のコントラストも印象的になります。
百々流、団地の撮影のコツは何ですか?
百々:光ですね。太陽の位置を確認しながら、柔らかい光で全体が明るいイメージになるようにしたいです。あとは、光の差し込み方と、視線。下から建物を撮影するとどうしても単一的な視点になるので、階段を少し上って上から俯瞰的に撮影するのも楽しいですね。
撮影のポイントを探す時には早く移動し、お気に入りのポイントが見つかればじっくり粘る。そうすると、思いがけない出会いを体験できます。ちょうど、駅から続く『かつらぎの道』は、季節の移り変わりを撮影する絶好のスポットですよ。日々、たくさんの人が行き来しますから。
撮影しながら歩いて感じたのですが、団地の植栽がきれいに手入れされていますね。
百々:そうですよ。毎日大変な作業だと思います。とくに、落ち葉が増えるこれからの季節は、清掃員のみなさんが一番苦労される時期ではないでしょうか? 団地の敷地内は、いつもきれいに管理してくれています。その安心感は、写真を撮る僕だから気づくのかもしれませんが、行き届いた管理にいつも感心しています。
ちょうど、児童公園で掃除中の女性を見つけて……、百々さん、すぐに歩み寄っていきました。
撮影の交渉成立ですか?
百々:はい。いつもきれいにしてくださっているので、感謝をこめて撮影します。できるだけ緊張しないように撮影したいのですが、どうしてもカメラを構えると緊張されてしまいますね。とにかく会話をしながら、相手の表情の変化を撮影したいと、いつも思っています。
ゆっくり撮影してみて、URの団地の魅力って何だと思いますか?
百々:清掃員の方もそうですが、いつも誰かが行き来していることですね。これは子育てする親としては安心できます。ここに住んでいる時、2人目の子どもが生まれるとわかって、急いで引っ越し先を探しました。家族が増えるのでもう少し広い所がいいと思ったからです。あまり時間がなかったのですが、1階部分に専用庭のある物件をURさんに紹介してもらい即決しました。だから、うちの子どもたちはUR育ちですね。