山崎紀子(シネ・ヌーヴォ支配人)

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CDを買うと音楽を持っている感じがするのに、DVDを買っても映画を持っている感じがしないのはなぜだろう?そんな話を編集部でしていたら、ちょっとおもしろいことに気がついた。

ーそういえば映画館で流れてる映画も借り物じゃない?

そんな流れで、今回は大阪九条の映画館「シネ・ヌーヴォ」の支配人、山崎紀子さんに話をお伺いに行きました。

シネ・ヌーヴォは、1997年に映画ファンが市民出資でオープンした関西でも屈指のディープなミニシアター。ちなみに取材にお伺いした日の上映プログラムは、ドイツの伝説的監督エルンスト・ルビッチの特集上映、中国の若手鬼才スカッド監督作品「ボヤージュ」、そして90年代パリを駆け抜けた一人のDJの姿を描いたミア・ハンセン=ラヴ監督作品「エデン」…と朝から全開の様相。さて、映画と映画館にまつわるどんなカリグラシな話がとび出すやら。


山崎紀子
1977年、大阪生まれ。 大阪美術専門学校にて3年間、油彩画を学ぶ。在学中に今はなき梅田花月の夜だけ映画館「シネマワイズ」にてアルバイト。2001年、シネ・ヌーヴォに入社。2008年、支配人に就任。数々の特集上映企画に携わる。

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#1 みんなの映画館

この場所はシネ・ヌーヴォができる前から映画館だったと聞いています。

もともとこのビルができた時から1階が映画館で、何度か経営母体が代わって館の名前も変わったりしていたそうですが、ずっと映画館ですね。シネ・ヌーヴォはそれを居抜きで借りてスタートして、と言っても内装は随分変わってますけど、基本的なつくりは今も当時のまま。だから、最近のミニシアターにしてはめずらしく天井が高かったり、客席に傾斜がついていて前の人の頭が邪魔にならなかったり。昔ながらの町の映画館といった感じです。

シネ・ヌーヴォは映画ファンの人たちがお金を出し合ってできたんですよね。

そうですね。当時うちの代表(景山理さん)が「映画新聞」という映画ファンのための紙メディアを発行していて、「私たちが本当に観たい映画が観れる映画館を作りましょう」と読者に1株10万円で呼びかけたんです。それで多くの人たちが賛同してくれました。その仕組みは今も変わらずで、みなさんに支えてもらっています。

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館内の内装は水中をイメージ、大阪に拠点を置く劇団「維新派」が手がけている

基本的なことをお伺いしたいんですが、映画館でかかっている映画は「借り物」ですよね。どこから借りてくるんですか。

一般的には配給会社から借りるんですが、シネ・ヌーヴォはインディペンデントな作品もたくさん上映しているので、そういう場合は監督さんと直接やりとりしてお借りしてくることも多いです。

どういう状態で送られてくるんでしょう。

基本的にはフィルムです。ちょうどここにありますけど、こんな感じで専用のケースに入って、宅急便で送られてきます。この一括りに6~10缶入ってて、全部で映画1本分。けっこう重たいですよ。

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返却を待つ映画のフィルム。ちなみに送料は映画館の負担で1890円

おぉ、普通に宅急便で届くんだ! そして思ったより物質的。

そうなんですよ。特集上映の時なんかは、これが1日に何本も届いたりするので、配達の人にはご苦労かけています(笑)。
で、上映が終わったらまた送り返すんですが、別の映画館ですぐに上映予定が入っていたりする場合は、うちから直接転送したりもします。このあたりは本当に信用問題なので、ぜったいにきちんとするのが映画業界のルールですね。

じゃあ、けっこうリアルに借りてる感ありますね。

めっちゃくちゃありますよ。それもフィルムってけっこう貴重品というか、もうこの1本しかないっていう場合も少なくはないんです。最近はデジタルになって若干事情は変わってきてますけど。

ちなみにデジタルの場合はどういうやり取りなんですか?

ネットで配信されてくる場合もありますし、ハードディスクが送られてくることもあります。配信は上映が終わるとデータが自動的に消える仕組みですが、ハードディスクはお弁当箱みたいなのに入って、やっぱり宅急便で送られてきます。だから上映後はフィルムと同じように、うちから別の映画館に送ることもありますね。基本的に借りてきて返すっていうのは、フィルムとあんまり変わらないですよ。

お話を聞いていると、映画をみんなで共有しているといった印象を受けます。

もちろん具体的に個々の映画を借りてくるのは東宝だったり松竹だったり、個人の監督さんだったりするんですが、フィルムだけじゃなく、もっと大きな意味で「映画」というものを共有しているという感覚はあります。そういう意味では、シネ・ヌーヴォ自体も、株主や映画を観に来てくださるお客さんとみんなで共有しているという感じです。

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そういえば、ヌーヴォにはいろんな人が寄贈してくれたり貸してくれた本や資料が山のようにあります。半分くらいは代表のものだったり、あと私やほかのスタッフのものも結構あるんですけど、とにかくあちこちにいろんなものがぎっしりで、特に本はもう見てのとおり。だから、たまに映画担当の記者さんがなぜかここに本探しに来たりもします。それで、見つかったら借りていって、またしばらくして返ってきたり。お客さん同士の貸し借りもあるみたいで、たまに「◯◯さん来たらこの本渡しといて」と頼まれたりもします。

もはや、映画館と言うより、映画ファンのための映画サロンですね。

だから、私自身は支配人という立場で働いていますが、お客さんとの境目はあんまり感じていないかもしれません。実際、私もここで映画を楽しんで、お客さんと盛り上がってますから。

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DATA
シネ・ヌーヴォ●大阪市西区九条1−20−24/1997年開館。69席のメインシアターに、現在は24席のシネ・ヌーヴォXも併設/上映プログラムや過去の上映作品などは
https://www.cinenouveau.com/

文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:平野愛

映画館のことを知れば知るほど、楽しい場所だなと思います。次回は、そんな映画館の支配人のお仕事と山崎さんが映画館で働くようになった理由に迫ります。映画館という場所がなにやら心地よい理由が明らかに!?
#2 流れていくものを眺めている


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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