2017.03.29
with
チチ松村(ギタリスト)
around
南森町~中崎町~梅田〈大阪市〉
GONTITIのチチ松村さんと散歩です。チチさんと歩いていると、なんだか時間がゆっくりになっていくような気がします。これはチチさんマジックでしょうか。今回は中崎町の迷路のような路地に入り込んだりします。
#03
路地の喫茶店/ギター目/粗大ゴミ/店先にキリギリス
—路地に入ってきました。梅田に近いですが夕飯の匂いがしそうな町です。
チチ松村:近くに喫茶店あるから行こうか。ここ(の路地)やと思うねんけどな。
—こんな路地に?
そうそう。あー、準備中や。
—喫茶「イノ」。音楽ユニット、イノウラトモエのキーボーディストだった井上智恵さんのお店なんですね。
ここ、いいよ。惜しいな。
—また行きましょう。では、チチさんの梅田行きルートを辿りましょうか。このあたりはゴミはあんまりなさそうですね。自転車に乗りながらも見つけたりします?
捨てられてるギターは自転車乗ってても見えるねん。家まで、自転車でギター担ぎながら帰ったこといっぱいあるよ。
—そんなにギターがありましたか?
落ちてたねー。ぼくが“ギター目”になってるのもあると思うけど。
—ギター目。
昔は、粗大ゴミが山のように積んであったからね。そこでパッとギターが目につくねん。それで触ってみて。あかんのもあるよ。いけるなっていうやつは持って帰る。ほっといたら、もうゴミの車にバラバラにされてしまうからね。
—それはもったいない。
そうやねん。だから助けるわけ。
—レスキュー感覚ですね。
そうやね。
—ギターもチチさんに拾われるのは本望ですね。今も散歩中に拾うことはあります?
今は粗大ゴミ置き場自体がなくなったから、なかなかないね。
—寂しいですね。ギター目が発揮できない。
でも、家の前に紙が貼られてギターが置いてある時は、呼び鈴を鳴らして、これもらっていいですか?って一応聞いて。それでもらったりすることはあるよ。
—へー。粗大ゴミ回収用の手数料券というのが貼ってあるやつですね。
この道、よく通るんやけど、あそこに散髪屋さんあるやん?
—はい、「理容エイト」。なにかぶら下がってますね。
あそこ、夏場はいつも店先にキリギリスをカゴに入れて吊り下げてるねん。いつも夏になったら、キリギリスの声を聞くね。めっちゃ鳴かしてる。
—近所からキリギリスの店と呼ばれてそうな。
いつか、10月くらいまで鳴いてたことがあったから、どうやったらそんな長生きするんですか?ってお店のおっちゃんに聞いたよ。
—はい。
でも、とくになにもしてない(笑)。夏にここ来たらおもしろいよ。
—行ってみます。
手書きのTシャツ店/クスノキのご神木/自転車置き場/日替わり焦点
―中崎町に入ってきました。
あ、そういえば中崎町にむちゃくちゃいいTシャツ作ってくれるお店あるよ。手描きで。行ってみる?
—行きましょう。
あそこは最高。図鑑を持っていって、これ描いて、って。手描きでオーダーメイド。
—手描きなんですね。こんな細い路地にお店があるんですか。
あれ、この道ちょっと間違えてるかもしれん。
—迷路みたいになってきましたね。
ちょっと分かりにくい細いところやねん。うーん、ちょっと待ってな。あー、あった。
—「花音」さんですね。おじゃまします。
こんにちは。ご無沙汰です。ほらこのTシャツ見て、すごいやろ?
—すごい。まず服を選んで、自分の好きな絵を描いてもらうんですね。
かっこいいやろ。これ全部、手描きやで。ぼくはこれまでセミとサルと、なんやったかな?
(「花音」の店主さん:豆、を描かせてもらいましたね)
そうそう、豆を描いてもらった(笑)。セミは、沖縄にいるクロイワゼミを描いてもらって。
—全身が緑のセミ。こんなのいるんですね。
サルはアマゾンにいるウワカリ。このカエルもすごいな。
—クロイワゼミのTシャツもウワカリのTシャツも絶対に売ってないですよね。
売ってない売ってない。
―このクオリティで描いてもらえて7,800円! 安いですね。
めっちゃいいよ。絶対安いよ。すごい店やろ?
—路地奥にこんなお店があるなんて。お店の前には神木が植わってるのもおもしろいですね。
「白龍大神」やね。神木はだいたいクスノキらしいよ。神木を切ったらえらい目にあうのは、クスノキから毒が出るかららしい。この前、タクシーの運転手さんが言ってたわ。
—そりゃ切ったらダメですね。さて、もう梅田が近づいてきました。
梅田はぶらぶらしに来るところ。本屋さんに行ったり、映画を観たり。
―梅田って自転車だと置き場所に困りません?
それがいいところあるねん。あまり知られてないところで。
―さすがです。そろそろこの企画の制限時間の2時間です。最後に、チチさんが考える楽しい散歩の秘訣とは?
ふだん目にしてないものを見てみる、ということかな。
—あえて?
そう。虫なら虫に焦点を置いて、今日の散歩は虫でいこ、とか。日替わりで焦点を変えると毎日がめっちゃ楽しいわけ。
—視点、というものをしっかり意識する、と。
ふだんは興味があるものしか見てないわけ。でも、それを変えると毎日が変わる楽しみがある。やっぱりそれちゃうかな。
文:中村悠介 写真:佐伯慎亮 編集:竹内厚