大家さんと賃貸住宅、まちの話
青木純(大家/都電家守舎)
#2 大家さんが変わってきた!?
#1 はこちら
大家さんの業界が変わってきたという印象はありますか。
青木:随分、変わってきたと思いますよ。ここ2、3年前の大家さんというのは、「○○フェア」みたいな見本市に行って、“魔法の小づち”みたいに最新のアイテムを一生懸命探してというやり方でしたけど、それを自分のマンションに持ち帰って本当に活かせるのかって話ですよね。
これまで、そんなにたくさんの大家さんに出会ったことがないですけど、そんな感じなんですね。
青木:大家さんだけで寄り集まった世界が、僕はすごくイヤだったんです。大家さんの集まる場に行くと、“更新料は絶対にとる”とか、“定借(定期借家契約)に切り替える”って話題が多くて、結構、自分たちは被害者だという感じなんですね。だけど、それ以前に、せめてお客さんである住まい手の名前は知ってますよね、コミュニケーションはとってますよねって、最低限のことをやってからの話じゃないですか。
大家さんとしてやるべきことが先にあるはずだと。
青木:そう。大家さんって本来、経営者だし、まちに与える影響力も大きいんです。僕は、大家さんは“まちの採用担当”だって言ってますけど、どういう建物にして、どういう人を住まわせて、どんな地域にするかってことまで影響があるんです。なのに、大家だけのつながりで集まってることにすごく違和感がありました。
「リノベーションスクール」にも僕は関わってますけど、最初に参加したのが2012年かな。その頃は、大家さんで関わってる人は誰もいなかった。だから、たまたまの縁があって「リノベーションスクール」に誘われたとき、大家としてこういう場に出ていくべきだなって。できるかできないかじゃなくて、行くべきだし、やってみるべきだと思いました。
確かに、まちづくりの話で大家さんが顔出さないという理由はありません。
青木:結果的に、「リノベーションスクール」は全国的に広がって、不動産オーナーという立場で参加する方もかなり増えています。
今年4月、東京でも「リノベーションスクール」が開催された。
同業で気になる動きをされてる方はいますか。
青木:僕にとって大きいのは、福岡の「吉原住宅」*の吉原(勝己)さんです。逆立ちしても追いつかないくらい、いろんなことにチャレンジして、次々と新しいステージに進まれてます。先進的に自分が動いてみせることで、これからの不動産オーナーの新たな動きを呼びおこしていきたいって吉原さんは思われていて、その姿勢に僕もすごく影響を受けました。だから僕はひとりじゃないし、いい先輩がいるんです。
*吉原住宅有限会社 https://www.tenjinpark.com/
ホームページをちらっと見るだけでも、「吉原住宅」の活動はメッセージにあふれていますね。
青木:やっぱりブームで終わっちゃダメなんです。文化にまで根づかせないと。これまでの住宅は“文明住宅”ばかりだったので、それを改めて、文化として築いていくのはかなり困難な道のりだから覚悟を決めてやらなければって、吉原さんともよく語り合っています。だから、僕らは率先して実践してみて、それをちゃんと共感できるように見せていかなきゃ、孤立してしまっては文化なんかとても作れない。挑んでるものが大きいんですね。
文明住宅というとどんな住宅のことを言われてますか。
青木:その時代のハイスペックなものを取り込むことを第一にした住宅ですね。今までずっとそうだったと思うんです。最新のものをカタログで見て、ポータルサイトで絞りこんで、検索してってやり方。僕も前職はそういう仕事をしてましたけど、やっぱり、それでは薄っぺらいしつまらない。
最新スペックを追いかけるって、いずれ古びるってことと同義ですもんね。
青木:そうです。DIYは入口だって言いましたけど、それをキッカケにしてコミュニティが成熟していくのであればDIYもいいと思いますし、だけど最終的には、やっぱり人が主役なんですね。それは、「住」という漢字にも表れているとおりで。人が主。だけど、これまで多くの賃貸住宅では、前の住人の痕跡をすべて消した後に、次の人どうぞって、人をかき消す方向だったんですね。そこを変えていかないと。究極の目標としては、あの人が住んでいた家だから、この後を受け継ぎたいってなれば一番いい。
意識的に住み継ぐこと。賃貸住宅の理想形ですね!
青木:そうです。これだとハイスペックな文明住宅とは無縁でも、これが価値だからって言えるし、大家さんにとっても価値のある住宅になる。たとえば、むかしの団地のキッチンにホーローが使われてましたけど、今ではそんなの作れない。だから、それをごっそり捨てちゃうよりは、天板だけ取り替えたりタイルを貼ったりして活用するほうが全然いい。それが、文化だって感じがします。