9.ドムス香里に住む理由

器はたくさんあるものの、暮らしはとてもシンプル。
そんな服部さんのキッチンへのこだわりは3つ口コンロ。
けど、最近の消防法では、3つ口の据え置きコンロは禁止されているそう。

滋樹ビルトインにするとか、いろいろ交渉はしたんだけど、ダメで。
手を入れたかったキッチンは、石井修さんのまんま。

しかし、「そのまんま」というのが実は、石井修が設計したドムス香里に住むにあたっての大きなテーマでもあったそうだ。

滋樹ここに暮らす上で、元の設計に戻すということをやりたかった。
建物ができてからいろんな人が住んだおかげで、竣工時にはなかったものがいっぱいくっついてきた。
たとえば、クッションフロアやPタイルであったり、IKEAのキッチンが入ってたりして。
人の手によって変化して行くよさもあるけど、そうではなく、石井修さんの設計を味わいたいなって。

たまたま知り合った石井修さんの息子さんを通じて、ドムス香里の青焼き図面を手に入れることもできた。
あとは、住みながら、少しずつもとの設計に戻していく予定。

滋樹壁についているシーリングライトは、石井さんの元の設計のもの。
石井さんが室内の設計をすると、わりと暗いのが特徴なんだけど、ほんとにいいですよ。石井修さんはよく考えられているなと思う。
そうして石井修さんのすごさがわかった上で、もっとこう自分好みにできるんじゃないかという部分も見えてくる。
それも含めて、味わいたいなって。

暗いから明るく、不便だから便利とすぐに作り替えるのではなく
作り手の考えた空間をありのまま
そこにどんな意図や思想があったのかを生活を通じて感じてみたい、
というようなことと私は解釈した。
そこには、石井修さんへのリスペクトと同時に、モノ作りに対する服部さんの向き合い方が、垣間みられた。

文:松村貴樹 写真:香西ジュン 編集:竹内厚

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