4.午前5時の食器棚作り

服部さんが新居として選んだドムス香里は、建築家・石井修が設計し、1981年に完成した集合住宅。
建築に興味がある人なら、その名前は聞いたことがあるかもしれない。
実際、見た目も中も間取りもすべて特徴的で、ありきたりなところはひとつもない。
ちなみに堺にある「天と地の家」という石井修設計の家が売りに出されていることをこの訪問で知り、調べてみたのだが屋上庭園、緑化というよりも地面と屋根が地続きのような、不思議な設計。
そして、服部家の台所も、庭に面し日当りもよく独立した部屋ながらオープンな印象。
また、レンガの壁が有機的で暖かい雰囲気を感じさせる。
なによりこの部屋で作るごはんは楽しそうだ。

そんな台所のなかに、さまざまな器が無造作に積み上がっている食器棚がある。
天板の上にも、その周りの床にも収まりきらない器がはみ出ている。
実は、取材当日の朝5時に起きて、服部さんが急いで作った棚。
それまでは、引っ越してきたときのままの段ボールの状態で、その中に器が入り、段ボールがいくつも積み上がっていたそうだ。
食器棚の材料は、あとは組み上げればいい状態で置きっぱなし。
それはそれで、服部さんの日常らしいとも思うけれど、取材という非日常の介入がこの食器棚の完成を急がせた。
汗だくになりながら、早朝から作ったはいいけれど、まだボンドが乾いておらず、持ち運ぼうとしたら一度、崩壊。
いよいよ完成して夫婦で持ち上げようとしたら、重すぎて、まったく持ち上がらなかったなんてことがこの日の朝から繰り広げられていたそうだ。
そんな苦労をみじんも感じさせず、私たちが到着した頃には食器棚がここにあった。
こうして愛すべき器たちの住処として、服部家に新しい食器棚が仲間入りした。

→5.今回のおもたせは「ルヴァン」へつづく