団地のひとインタビュー 009

グリーンマネージャー・遠藤冬樹
と団地の緑

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OURS.の記事内で、団地内の植物を食べようとした男がいた。
その男、三上拓が大阪支社から東京への異動が決定。
引っ越し直前の4月某日、三上が大阪で出会った仕事仲間の中でも、最大級の興味を持っているという遠藤冬樹さんに会うためにいっしょに遠藤さんのもとへ向かった。

団地内の植栽を管理する仕事で、先の記事で、三上が団地の植物を口に入れようとしたのも遠藤さんの影響だそう。
一体、どんな人物なのか。そして、グリーンマネージャーの仕事とは。
まずは、ここにいたるまでの遠藤さんの職遍歴を聞いてみたところ、やっぱりすごい方でした、遠藤さん!

*三上拓による「森之宮第二団地のヤマモモ みちくさを食う」記事
https://uchi-machi-danchi.ur-net.go.jp/ours/wild-gourmetd/

どんなキッカケからグリーンマネージャーという仕事を始められたんでしょう。

遠藤:社会人になってから、ずっとそういう仕事やからねぇ。まず京都の植木屋さんに就職してから、ずっとね。

植木屋さんだったんですね。

三上:遠藤さんは京大出身なんです。

京大から植木屋さんというのもそんなにたくさんいないのでは?

遠藤:京大から二人目かな、植木屋さんに就職したのは。京大の林学科に造園専攻があって、そこを出た人は結局、みなさん造園の仕事をやってるけどね。まあ、僕は落ちこぼれですよ。簡単に言えばネクタイしたくなかった、それだけ(笑)。

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手前が遠藤冬樹さん、奥に三上拓さん

自分の腕でやっていきたかったということですね。

遠藤:職人の世界が好きやからね。入ったのが京都のええ植木屋で、宮内庁の仕事を引き受けていて、最初に行ったのは岩手の平泉。毛越寺の「観自在王院」って、藤原基衡の嫁はんがつくったお寺があって、その庭の復元の仕事でした。

三上:いきなりすごい仕事ですね。

遠藤:森蘊先生*という奈良国立文化財研究所にいた、平安時代の庭の大家がついてる植木屋さんやったから、国宝級の庭ばかり手がけてました。

平泉の観自在王院は、いまとなっては世界遺産の一部ですよ。

遠藤:その後は奈良の薬師寺、法隆寺の剪定とかもやって。せやから面白かったですよ。その植木屋には3年くらいおったかな。

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その後は。

遠藤:独立してね、ひとりでやってたんですよ。

見切りが早いですね。

遠藤:うん、早い(笑)。そしたら今度は、京大の先生の紹介で、舞鶴で西武百貨店がやってた「西武舞鶴農場」**というところを紹介されたんです。当時の西武百貨店にツバキをすごく好きな方がいて、ツバキの品種改良をするために植物研究所をつくったんです。知り合いの先生がその所長になったので、「おまえ来えへんか」と。

じゃあ、今度はそこでツバキの研究を?

遠藤:ツバキの研究はその所長の先生がされて、唯一の研究所員だった僕は、山の木が好きやから山ばっかり歩いて、種を採って苗つくってということをやってました。でもそこも3年くらいで辞めて、友達と植木屋さんをやってたんですけど、今度は大阪の「花博」の仕事に来えへんかということになってね。

大阪の花博(国際花と緑の博覧会)は1990年ですね、何度も行きましたよ。

遠藤:花博は会場をつくるところから入って、開催期間中のメンテナンスも。「空間創研」という設計事務所が設計を担当したんやけど、ここから話をもらって。

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花博ではどんなことを?

遠藤:僕の担当は「花の谷」というエリアで、今も地形だけはのこってます。

今の花博記念公園鶴見緑地にありますね、「花の谷」。それにしても、遠藤さんの職歴、一体いつ団地にたどり着くんでしょう(笑)。

遠藤:花博が終わった後も10年ほど空間創研にいて、そこで、公団の緑の監督もさせてもらったのが、団地との縁やね。行き当たりばったりやけど、ずっと造園という筋は変わってない。

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三上:僕はまだUR入社6年目ですけど、そんなに職を変えるということが想像つかなくて。昔はもっと終身雇用の時代だったでしょうし。

遠藤:それはまあ、上の人にもすぐ意見してしまうので。今の仕事は、(UR都市)機構にいた福廣(勝介)さん***という人が大学の先輩で、声をかけてくれたんです。

三上:福廣さんはURの造園職におられた方で、すごく顔が広くて、あちこちの面白い方に声をかけて、グリーンマネージャーという職種を立ち上げたんです。立ち上げメンバーは全員、福廣さんが集めたんだと思います。10年ほど前の話ですね。

遠藤:福廣さんに呼ばれたら、そらもう、みんな集まるやろうってくらいの方です。

福廣さんにもいつかお会いしたいですね。集まったグリーンマネージャーは何人?

三上:今は西日本で9人ですね。

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想像以上に精鋭メンバーなんですね。それでどれくらいの団地を管理しているんでしょう。

三上:西日本は7つのセンターに分けられるんですけど、そこに9人のGM(グリーンマネージャー)がいて、団地は300カ所くらいを見ていただいてます。月に1回、GMさんが集まって会議をするんですけど、最初に僕が参加したときは衝撃でした。みなさんベテラン揃いで、歴戦の猛者みたいな方々がすごく意見を言い合って。

遠藤:火の出るような喧々諤々の会議ですよ。

三上:仕事としての部分と理想との折り合いをつけるのが難しかったりしますので。

どんな議論、議題があるのか気になります。

遠藤:終わった後の飲み会でも呼びましょか(笑)?

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というわけで、後日、グリーンマネージャー会議の前にご挨拶してきました。後列左から、岡田さん、村山さん、清家さん、矢田部さん、田中さん、天野さん。前列左から遠藤さん、佐々木さん、杉浦さん。好きな樹木をお聞きすると、カツラ(岡田…以下上記の名前順に)、モミジ、ヒメシャラ、イチイ、アオダモ、サクラ、ニオイコブシ、ナツハゼ、タチアオイ、と見事にそれぞれ違った回答をいただき、さすがのチームワークでした!


*森蘊(もりおさむ) 1905年生まれ。庭園史家として研究、発掘、復元整備も行う。1988年死去。
**西武舞鶴農場 1977年オープン。現在は舞鶴自然文化園として開放されている。
***福廣勝介 2014年にURコミュニティを退職。高槻・阿武山団地の上の池公園につくったビオトープで日本造園学会賞受賞。NPO法人「近畿水の塾」代表理事。

「グリーンマネージャー」という肩書きだけでは想像できない、遠藤さんの職歴と個性。
そんな遠藤さんがグリーンマネージャーとして目指すこととは何か。その話は次回!
#2へ

文:竹内厚 写真:平野愛


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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