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  • 空き教室はネガティブなハコじゃない 西野雄一郎(セルフリノベ研究家)

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空き教室のリノベーションを進めている。
大阪市大正区の中央中学校が舞台だ。大正区は大阪の中心部である難波や梅田からほど近い場所ながら少子化や人口減少が進み、消滅可能性都市(2040年に向けて20〜39歳の女性が半減し、人口が急に減少することから今後消滅する可能性があると推定される都市)に数えられる。
いまや都市部でも教室が余る時代になっている。

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中学校の生徒数は全国で現在350万人、過去最高だった1962年の732万人に比べて実に半分以下だ。空き教室の数は2.1万室にのぼる。


学生時代、ぼくは教室を楽しい空間だと思ったことがなかった。
いつ行っても、どの教室に行っても同じ風景だったから。
小中あわせて9年間も毎日通う学校にもっといろんな場所があったらどれだけ楽しみは拡がっただろう。
そう考えると空き教室は決してネガティブなハコではない。
それどころか学校を楽しい場所に変える有効な空間資源だ。
有り余る空間をつかって、学生たちが自分たちの好きな居場所を自分たちでつくるサポートをする。そんな想いで空き教室のリノベーションに取り組んでいる。


中学生と一緒にカッコいいデザイン案をつくるためにワークショップを行ない、いろんなイベントを仕掛けてみた。

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カラーコーディネーターによるカラー診断を企画して色に親しんでもらう

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色塗りをしてもらってイメージを膨らませる

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使い方について話し合い

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自分のアイデアを発表してもらう


建築の専門家だったらデザインコンセプトを決めて線や面にどう色をつけて空間を構成するかなどと考えがちだ。だけど中学生はそんなことお構いなし。描いてもらった絵はとても自由だった。
好きな色や図柄をいっぱい使うし、パースを無視して図を描く。こうなってほしいという願望がダイレクトに表れて、絵を描いているのに近い。ぼくらだったらこんな直感的なアイデアは出ないだろう。
その素人っぽさにこそ意味がある。大人が勝手に考えた空間をつかうのでは意味がない。純粋な気持ちが個性のない教室を楽しい場所に変える力を持っている。
みんなが描いた11個の絵を3チームにまとめて、ネイチャー・レトロ・アヴァンギャルドと名付けた。

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中学生の案。チームはアヴァンギャルド。

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大阪市立大学の大学生も混ざってもっとカッコよくする方法を考え中


意見を大学に持ち帰って3つの案をさらにブラッシュアップしていく。
とは言え、あまりに自由でバラバラな案が11個も集まってどうまとめていこう…と途方に暮れていた。なんとか奮起して中学生が描いた案の良い所を抽出して、プロの目線から何かを考えたり動きたくなる空間へと変換していく。中学生の自由なアイデアがぼくらの空間アイデアとミックスされて思いも掛けない空間へと発展していった。

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3つの案

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模型やパースを使ってブラッシュアップ案をプレゼン

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決定デザイン案をよりよくする方法を考えてプレゼンしてもらう


中学生の投票によってデザイン案はアヴァンギャルドに決まった。
もう一度これをみんなが好きだと言える案にしたくて、案をより魅力的にする方法を考えてもらった。すると他の案に投票した学生からも僕たちが想像していなかったアイデアがどんどん出てくる。
「床の色をカーペットで表現して座ったり休憩できる場所にしたい」、「同じ色のカーテンを使いたい」、「壁を色相環みたいな色味にしたい」、「レトロ案の家具をうまく取り入れたい」などなど
これにはほんとに驚いた。頭をガツンとやられた気分だった。
くつろげる場所にしたい楽しい場所にしたいという想いを実現する方法を柔軟に考えていて、それは大人の事情なんて全く関係ない。
たとえば床のカーペットなんて予算的に考えもしなかったけど探せば買えるものがあるかもしれないし、なにより教室をもっと使いたくなるようなアイデアだ。

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デザイン決定案


最終的に出来た案はとても個性的なデザインだ。
こんなにカラフルで刺激的な空間を学校でみたことはない。教室に入ったときに今日は何をしようと考えたくなるようにデザインされていて、いろんな使い方が1つの空間に混在している。
批判はあるだろう。だけど方法が普遍的だったとしても使い方や使う材料は教室毎、学校毎、地域毎に違っていいと思う。
いまこのメンバーでココにしか出来ない風景をつくる。それが学生の意識を刺激してこれからの持続的な変化を生み出すと考えている。
次は中学生と一緒に壁や天井のペンキ塗りを行なう。


西野雄一郎
賃貸住宅のセルフリノベを全国的に調査し、これを普及することに向けた研究を行う。UR都市機構、大阪市住まい公社、大阪市大正区、民間オーナーなどとのセルフリノベイベントの企画や実践を行うとともに、セルフリノベ賃貸の借家契約へのアドバイス、リノベの設計も行う。日本学術振興会・特別研究員。大阪市立大学大学院工学研究科・博士課程。

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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