二見恵美子さん(景観デザイナー)前編
団地のひとインタビュー 012
住民が参加できる屋上庭園づくりを
大阪の繁華街の一つ、ミナミから近い大阪シティエアターミナル(通称:OCAT)の屋上庭園をプロデュースされた環境デザイナーの二見恵美子さんと一緒に、大阪市北区のUR賃貸住宅「さざなみプラザ」を訪ねました。
前編では、屋上の空間の活用法について、二見さんのアイデアをお伺いしました。
二見恵美子さん(ふたみ・えみこ)
景観デザイナー。大学卒業後、デザイン関連の企業勤務を経てイギリスとアメリカに留学し、本場のランドスケープを習得する。帰国後、環境デザインオフィス『E.M.I.プロジェクト』を設立し、「環境改善のための仕事」をポリシーに幅広く活躍。都市緑化の視点から、いち早く屋上緑化を提唱し、近代建築の保存活動にも活躍の場を広げている。京都光華女子大学客員教授。
ホームページ https://www.emi-web.com/
UR賃貸住宅団地にも、屋上のパブリックスペースの利用方法について模索している団地があります。1982年頃に完成した「さざなみプラザ」には、スカイガーデン(スカイルーフ)と呼ばれている屋上庭園が設置されています。一度、見て欲しいと思っていましたので、本日は、よろしくお願いいたします。
そもそも、二見さんが屋上庭園に着目されたきっかけは何ですか?
二見:もう20年以上も前から地球温暖化やヒートアイランド現象が社会問題になっていました。都心部では土地の活用を見直さなければなりませんが、効率が優先され公園などの緑地の再整備は難しいと思っています。そこで、私が注目したのは、林立するビルの屋上でした。大都市に少しでも緑を取り戻す可能性を広げるために設置したOCATの屋上庭園は当時注目を集め、本格的な屋上庭園の整備は大阪の先駆け的役目を果たしました。ここの屋上は、私がOCATを整備する前に着目されていたんですね。
そうですね。でも、時代が変わってきて、もっと活用してもいいのではないかとの声も上がっています。それでは実際に、スカイガーデンに上がってみましょう。
二見:見晴らしが良くて、気持ちいいですね。梅田のビル群にこんなに近い距離なのに、広々とした屋上空間が広がっているのは驚きです。屋上庭園を見ると、環境保全のため、日本は都心部にあるオフィスビルや団地、マンションの屋上をもっと活用していくべきだと感じますね。スカイガーデンを設置されたことはいいことだと思いますが、ただ設置するだけでなく、住民のみなさんが集い和めるスペースであって欲しいと思います。いまのままでは、ちょっともったいないですね。
二見さんの手にかかれば素敵な屋上庭園になるでしょうね。
二見:はい。でも、簡単ではありませんよ。屋上庭園は、アーバンデザインという観点では地球環境への配慮という視点がありますが、もう一つ忘れてはならないのが、住民のコミュニティスペースという視点です。屋上に整備された庭園に畑をつくったり、実のなる木を植えたりして、植物を世話する楽しさを共有したりしてほしいですね。それから、収穫して分かち合う喜びを住民のみなさんで共感してほしいと思います。年2回ぐらいは、屋上庭園でお住まいの方同士の収穫祭を行い交流の場になるといいのではないでしょうか。
具体的には、どのようにすれば実現しそうですか?
二見:まずは、自治会で承認されたルールをつくる必要がありますね。お手本は、ドイツのクラインガルテン※。屋上の畑を貸し出して世話をする指導員役を立てると、はじめての人でも参加しやすいと思います。また、子どもたちも参加できるようにすると賑わいがあって楽しそうです。できるだけ、日常的に活用できるような場所にしたいですね。
※クラインガルテンは、200年ほど前にドイツではじまった農地の賃借制度で、広く市民農園とも言われています。現在では、余暇の楽しみだけではなく、都市部での緑地保全や子どもたちへの豊かな自然教育の場としての役割も期待されています。
ドイツのクラインガルテンは、多くの市民が利用していると聞きました。
二見:そうです。クラインガルテンは一般的に、広く市民に親しまれる貸農園のようなイメージですが、1980年代にはドイツの都市政策に大きく影響を及ぼしました。ピーク時はおおよそ110万区画が整備され、都会に暮らす多くの人の憩いの場になっています。
同じように、スカイガーデンも、住民のみなさんの憩いの場になるといいですね。
二見:そのためには、とにかくみなさんが誇りに思える場所にしなくてはいけません。住民が参加して、自分たちの手で世話をする。そうして、日々の会話の中でもスカイガーデンの話題で盛り上がり、季節の草花や野菜や果実の恵みを得て、一年中楽しめることが大切です。少しずつだと思いますが、自治会活動のテーマにすれば、実現すると思いますよ。