住みよい街・福岡で、音楽のプロモーターから不動産業に転身。2013年に完全予約制の「平野不動産」を立ち上げた平野亮さん。住むこと、暮らすことの第一歩である物件探しが、一般の不動産屋さんとはちょっと違っています。
お客さんとランチもするし、家具も一緒に見に行く。そんな一風変わった不動産屋さんのお話を、平野さんが古い建物に興味を持つきっかけとなったというカフェ「ふら」にて伺いました。
#1 母のカフェをきっかけに
素敵なお店ですね。
平野:「ふら」は母がやっているカフェで、今年で17年目です。福岡では少なくなった長屋で、元は貸倉庫なんです。この区画は「平尾山荘小路」と呼ばれていて、緑があって猫がいて、のんびりした時間が流れています。平尾は住宅地として人気のエリアですが、感度の高いショップや飲食店も多く面白い街ですよ。
緑に囲まれていて気持ちがいいですね。木も立派。何の木ですか?
平野:ナンキンハゼの木です。母がポイッと種を投げたら、17年でこんなに大きく成長しました。実は最近改装したんですが、根が基礎を持ち上げてモルタルを破ってしまったんですよ。母は根を見て「ダイオウイカみたい」と(笑)。
種から? すごい生命力…。
平野:店を覆っているツタも開店祝いでいただいた2つの鉢から伸びてて。他にもびわの木もあります。秋になると木々から葉がいっせいに降ってきて、キレイですよ。
平野さんが不動産に興味をもったのも、この「ふら」がきっかけだと伺いましたが。
平野:そうなんです。母が「いつかのんびり喫茶店をやりたい」という夢を持っていて、この物件を見つけたんです。家族総出で解体から塗装まで手伝って。リノベーションという言葉も聞き慣れない頃でしたが、古い建物に手を加えるのって面白いなあと。
当時は不動産関係の仕事ではなかったのですか?
平野:音楽のプロモーターの仕事をしていました。エリアマネージャーとして、全国まわっていて、その時に各地の市民会館とか古い物件を見て、いいなあと思っていました。特に岡山市民会館、林原美術館はグッときましたね。
ちょうど、仕事をこれからどうしようか悩んでいた時期で、子どもも生まれて、引っ越しもしなきゃ。で、不動産屋に行ったんですが、自分のビジョンが伝わらないんですよ。
どんな家を探していたんですか?
平野:木枠の窓、緑が見えて、駅から15分以内。
すごい条件ですね(笑)。
平野:「ふら」にあるこの窓のような、味のある雰囲気の物件を探していたんですよ。でも全然ダメで。不動産屋さんは「古い」=「ボロい」という感覚で、話が通じなくて。僕ももうぐったり疲れちゃいました。「もうないのかな」って諦めかけて。
その時に唯一、感覚の近い不動産屋さんに出会いまして。結局、物件は自分で探し当てて借りたんですが、不動産の仕事、面白いなと感じたんです。困っている人も、きっといるはずだと思って。
その出会いをきっかけに、転職されたんですね。
平野:そうですね。縁あってこの仕事に就きました。8年前、30歳でしたね。それから5年間お世話になって、3年前に独立。「平野不動産」を立ち上げました。
→#2 完全予約制の不動産屋
独立して立ち上げた「平野不動産」はちょっと変わったスタイルの不動産屋さんでした。
文:生野朋子 写真:平野愛