Interview

いろいろな角度でまち・団地を”語る”専門家のお話。新たな一面が発見できるはず。

専門家が語る まち・団地への想い

寒竹泉美さん(小説家)

団地のひとインタビュー 013

あぁ、私って団地びいき?

高校生の時、京都に憧れを抱いた小説家の寒竹泉美さんと一緒に、平安時代に都の中心地として栄えた四条大宮からほど近い、「壬生坊城第2団地」を訪ねました。子どもの頃に育った団地の景色を思い出し、懐かしさを感じながら、団地への思いを語ってくれました。

04-00プロフィール用

寒竹泉美さん(かんちく・いずみ)

小説家。京都在住。1979年岡山県生まれ。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。2009年に『月野さんのギター』(講談社)でデビュー。小説の執筆に加え、文章講座や朗読劇の公演など幅広く活動している。
ホームページ  https://www.sakkanotamago.com/

阪急京都線大宮駅から、明治時代には路面電車が通っていた後院通を歩いて5分。目の前に11階建ての団地が現れました。道路から離れ、団地の中に足を運んでいくと、通りを行き交う車の音も聞こえなくなってきました。

寒竹:少し入るだけで静かですね。それに、すごく懐かしい~。子どもの頃を思い出しました。父は公務員で転勤が多く、私が高校を卒業するまでに5回も引っ越ししました。ぜんぶ、団地。こういう団地に囲まれた雰囲気の中で毎日遊んでいました。

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団地の建物に囲まれた空間は、特別に感じますか?

寒竹:何かに守られながら遊んでいたという感覚が残っています。団地で遊ぶことは、子ども心に大冒険でした。ここの水の流れだけでも、一日中遊べますよね。小学生の頃は、団地の中でどうやって遊ぶのか、いつも考えていました。新しい鬼ごっこを考えたり、友達と食べられる実がなる木の地図を作ったり。ここに立っていると、当時の記憶がどんどんよみがえってきます。

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団地の中の公園でも遊んでいたんですよね。ブランコがありますね。座ってみましょうか。

突然、布団をたたく音が響いてきました。パンパンパン~。

寒竹:布団をたたく音、団地だとすごく響くんですよね。それが面白くて。どこかで、パンパンパンッてなると、少ししてあっちでも、こっちでも、パンパン、パンパンッて。久しぶりに思い出しました。ブランコに座るのも何年ぶりでしょう。高校生の頃、学校や塾から帰って、でも、すぐに家に入りたくない時に、ブランコに揺られながらぼんやりしたり、小説のアイデアを考えたりしていました。自分の知っている場所だから、安心感もあって……。今気づいたんですけど、なんとなく大学のキャンパスみたいですよね。

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そうですね。いろいろな人が行き来しているけれど、住んでいる人々にとってはプライベートな空間ですね。子どもの頃を思い出されたと聞きましたが、歩いてみて何を感じましたか?

寒竹:私は、団地で育ったからすごく団地びいきだなあって改めて感じました。「マンション」は、街に割り込んでいくイメージですが、「団地」は、街が団地から始まって拡がっていくイメージです。それに、「団地」の部屋を借りるだけなのに、団地全体が自分のプライベートな空間になるのって、とても贅沢ですよね。木々も、水の流れも、公園も、住民が自由にいつでも利用できる。そこに暮らす優越感をみなさんに知って欲しいですね。

この団地の周辺には歴史を伝える史跡が点在しています。団地に住まわれた経験から、京都で始めて気がついたことはありますか?

寒竹:数年前から生粋の京都の人々が住んでいる下町に暮らすようになって、「みなさん、すごく気遣いがうまいなあ」と気づきました。だからでしょうね、気遣いのできない人には冷たくクールに感じると思いますが、さまざまな歴史の舞台になってきた京都で育まれた人の交わり方なのだと思います。京都らしい文化は、気遣いから生まれたように思います。そこに、世界中の人が憧れ、私もまだまだ憧れています。京都に住んでいるというだけで鼻高々で、誇りに感じています。

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エッセイ

物心ついたときから引っ越しばかりしていた。だから、わたしには、故郷がないとずっと思っていた。生まれ育った土地にいつかは帰りたいと言う人や、家を買って一つの場所に根付こうとする人たちとは違って、わたしは根なし草で、ひとところにとどまるのは嫌だと思っていた。同時に、そのことに少しさみしさも感じていた。
でもこの場所で、わたしは、自分にも故郷があったことを知った。どの土地に移り住んでも、わたしの生活は常に団地とともにあった。シンプルで飾り気のない均一な建物。その建物に取り囲まれて守られるように公園があり、木々が青空をなでるようにそよいでいるこの空間。これがわたしの故郷だった。あまりにも当たり前だったから、その豊かさに気づかないでいた。
わ、と声をあげて子どもたちが駆け抜けていった。彼らもまたここで、この豊かさを当たり前のように呼吸して生きていくのだろう。そして何年後かにここを故郷としてなつかしんだりするだろうか。
木々の高い所で鳥がさえずっていた。見上げると見たことのない柄の大きな蝶々が、わたしの目の前をゆっくりと横切って行った。

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