西成のおばちゃんたちとの服づくりで西尾さんが感じた面白さをもう少し教えてください。
西尾:最初に6人くらいのおばちゃんの家を訪ねさせてもらったんです。家庭訪問みたいに、普段、どんな環境でどんなものをつくってるのかなって。そしたら、とにかくカバンをどんどんつくって周りに配ってる方とか、編み物が好きで小さな人形をつくってる方とか。その人形を旦那さんが気に入って、つけてるのも見せてもらったりして。あとは、僕が“ケニア流”と呼んでるやり方があって。
ケニアに何度も滞在している西尾さんのいうケニア流とは。
西尾:とにかくスピード優先で、どんどん形にすることを楽しんでる人です。ダイナミックな量産型。一方で、すごく繊細にこつこつとつくってる方もいて、ほんとに人それぞれでした。
手芸好きな街のおばちゃん達も作家みたいなものだったと。
西尾:これは、何年も続いてきたこの「たんす」という場所のコンセプトでもあると思いますけど、労働者やおっちゃんのイメージが強い西成で、女性にフォーカスが当たることが少なかった。僕が西成でファッションブランドを始めるっていえば面白いって言われますけど、だいたいは日雇い労働、ドヤ街のイメージなんですね。今回は、そこもズラしているんです。
「たんす」という場所、ここに集まるおばちゃん達の力を借りて。
西尾:継続性があるこの場所の可能性はものすごく感じます。いわゆるプロジェクトって、期間が終わるとそれきり。だけど、ここは参加者が毎週集まることが習慣になってるから、きっとここのおばちゃん達とだったらどんなことでもできるんだろうなって思います。
もちろん女性限定のスペースではないので、近所のおっちゃんも出入りする。
そうして誕生した「NISHINARI YOSHIO」ブランド、どんな服ができたんでしょう。
西尾:作業着なんですけど、狭い意味の作業着ではなく、その人の人生、日常に寄りそった衣服です。参加してくれたみなさんには、身近なある個人を想定して、その人のためのユニフォーム、作業着をつくるとしたらというお題で服を考えてもらいました。
たとえば、焼き鳥をいつも焼いてる知人がいて、熱いからって半袖でずっとやってるので、腕の皮膚が焼けてしまってるそうなんです。その人のために腕のところにいろんなパッチワークをして、腕を守ってあげたいってデザインされた服だとか。
やさしい服ですね。
西尾:そう、思いやりがデザインされている。1着ごとにそういうエピソードがあって、できた服をプロトタイプとして、そこから量産型の服をつくるというやり方をとっています。
こちらが腕にパッチワークの入った服。よく見ると焼き鳥モチーフも使われている。
量産といっても大量生産じゃないですよね。
西尾:ひとつのプロトタイプからまずは5点ずつ用意します。といっても、生地の色を1点ずつ変えてたり、「たんす」に集まってきた生地を利用してたりするので、結局は1点ものに近いんですけど。
まず、誰かが誰かのことを思ってつくった服を、量産化して販売するというのも面白いです。
西尾:ある特定の人の物語を借りるというのは、大量生産に対抗する方法でもありますね。それをファッションとして提示するために、あえてファッションブランドの形式を借りることにもこだわりました。
ブランドタグもきっちりデザインされて、完全にファッションブランドのマナーに則ってますね。
西尾:そこは、ドラマトゥルクといって、いろんなブランドのマネージメントをされている竹内大悟さんが間に入って、パタンナーに投げたりしてくれているのでできていること。今回のプロジェクトを、「あ、アートね」で終わらせないためにも、ファッション業界の中に入りこむようなやり方が必要かなと考えました。ブランドとしての形を整えていけば、百貨店で販売するような方向もありえるので。
焼き鳥を焼いてる知人のことを思ってつくられた服が、流通に乗っていくとしたらって想像するのも面白いですね。
お惣菜屋さんで何十年と使い続けてきたエプロンがもとになった衣服。こちらはプロトタイプ。