西尾美也とNISHINARI YOSHIOにみる
新しいファッションのかたち
セルフリノベーションやDIYなど、住宅を自分なりに手を加えて住まうことについての認識は、かなり広まっています。ファッションの場合はどうでしょう。手芸、リメイクといった流れがある一方で、ファストファッションの勢いがすさまじく、自分なりの衣服について立ち止まって見直すチャンスはなかなか持てないかもしれません。
美術家の西尾美也さんは、装うことにまつわるさまざまな「しがらみ」を吹っ飛ばすような作品やプロジェクトを展開してきました。そんな西尾さんが約1年以上、大阪・西成に通って街のおばちゃん達と創作を続け、この度、ファッションブランドを立ち上げることに。その名も「NISHINARI YOSHIO」。ダジャレ!? そのココロを知るために、西成の山王地区に設けられたkioku手芸館「たんす」を訪ねました。
kioku手芸館「たんす」。2012年12月、元タンス店を改装してオープン以来、3人のアーティストがここでプロジェクトを行ってきた。この活動を進める「Breaker Project」は、2003年より地域密着型のアートプロジェクトを展開している。
西尾美也
1982年生まれ。奈良県在住。個性と公共性をあわせもつ衣服を題材にして、国内外でのプロジェクトを展開。ケニア・ナイロビへの文化庁芸術家在外研修員などの経験から、アフリカと日本をつなぐ企画も行っている。
https://yoshinarinishio.net/
西尾さんの代表的な作品のひとつとして、見ず知らずの通行人と着ているものをまるごと交換してしまう《セルフ・セレクト》があります。西尾さん自身がこの作品を海外で実践されてますが、抵抗なくやれるものですか。
西尾:他人が今まで着ていたものを着ることや、普段着ない種類の服を着ることに対して、もちろん、いろんな意味での抵抗や緊張はありますよ。だけど、実際にやってみると逆かな。
―逆というと。
西尾:恥ずかしいというよりも、開放されていく感じのほうが強いですね。
《セルフ・セレクト#111(オークランド)》
―それはやってみないとわからない感覚ですね。
西尾:他人の服を着ている瞬間は確実にそうですね、開放感。きっと交換した相手の人もそれは一緒だと思います。他人と衣服を交換してそのまま過ごすのも面白いことですけど、《セルフ・セレクト》は、それぞれの普段の装いがあるからこそ開放感を感じられるんだと思います。
―率直な感想として、どうしてもすごく奇妙な格好に見えます。
西尾:数十年前の家族写真を同じメンバーと装いで再現する《家族の制服》という作品もつくってますが、それも変だと感じられるかもしれない。だけど、他の国の人が見たり、あるいは何十年後かに写真を見た人も変だと思うかどうかはわかりませんよね。
―確かに。奇妙に感じるっていうのは、完全に自分自身の先入観でした。そう思えば、身近な誰かとでもちょっと服を交換してみてもいいかもですね。
西尾:きっとカップルでやってたりしますよね。ケニアだと友だち同士で服を交換するということは、日常的に行われていました。服を交換するということだけでいえば、決して僕だけのアイデアではないけど、いろいろな人たちと関わるための遊びを開発しているような感じもあるんですよ。今回の西成でやってきたことは、そういう一面もあります。
―衣服を介して、西成のおばちゃん達と遊んできた。ここで「たんす」での西尾さんの活動を振りかえると、2016年12月から毎月のようにテーマを変えて、いろんなワークショップを続けてこられた。
取材時もおばちゃん達はマイペースに切ったり縫ったりを続けていた。
西尾:そうですね。僕が過去にいろんなところでやってきた、装いに関する固定観念や思いこみを崩すようなワークショップをやってみたんですけど、これがすごく面白い反応で。まず、何をやってもすごく抵抗の声があがる(笑)。
―おばちゃん達の力が強い。
西尾:服に対する思いや好き嫌い、手芸のことについてなど、明確にみなさん考えをお持ちの方々なので、「なんでそんなことせなアカンの!」って返ってくるんですよ。なんだけど、この「たんす」という場所が長く続いてるので、毎週水曜日はここに通うというのがおばちゃん達の習慣にもなってるんですね。なので逃げてしまうこともなく、いろんなことを口々に言いながらそれでも課題に挑戦してくれる。
夕方4時には帰っていく。みなご近所にお住まい。
―たとえば、どんなワークショップをされたのでしょう。
西尾:最初にやったのは、古着を自由に裁断して、袖や襟といったいろんなパーツをシャッフルして、どんな服ができるか楽しみましょうっていうものでしたけど、まず1着の服をただ分解するってことができなくて。この襟はこっちに持ってきて、この袖はあっちにって先にデザインを考えてから、そこだけを切るんですよ。
―いろんな服のパーツを無作為に再構成しようというのが西尾さんの意図だけど、そうはいかない。作為たっぷりに仕上げてくると。
西尾:自分はこうやりたいっていうのが強くて、しかも最後まで抵抗というか、僕の意図を理解せずにやり続けた人が、またいい作品をつくるんです(笑)。
さまざまなデニム地の衣服で再構成されたシャツ。これが、ひとりのおばちゃんの創作物(非売品)。
―おばちゃんのポテンシャルで突破してくる(笑)。外からのアーティストである西尾さんと地元のおばちゃん達のせめぎあい、それも興味深いですね。
西尾:そう、それが面白くて。僕が設定したルールそのものから逸脱していく、このズレがすごくいいなと思って、ズレがひとつのキーワードになってきました。で、西成と僕の名前をズラした架空の人物名がブランド名になりました。
―西成(nishinari)と西尾美也(nishio yoshinari)でNISHINARI YOSHIO。生まれたときから、西尾さんは西成に呼ばれてたとしか思えませんね(笑)。
西尾:ちなみに、ヨシオって僕のおじいちゃんの名前でもあるんですよ。
―そこまで符号が合えば気持ちいいです!
「たんす」は2階建て。継続する活動の過程で、少しずつ内装も変化してきた。