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  • カリグラシ対談 矢津吉隆(kumagusuku) × 野口順哉(空間現代/外) 第3回

#1 はこちら #2 はこちら

場所を持つことで、制作への影響ってどれくらいありますか。

野口 私たちの場合は、はっきりと練習量が増えたこともありますし、音づくりの面で「外」という基準ができたので、その影響も大きいですね。

外は、空間現代にとっては練習スタジオ、録音スタジオでもあるから。

野口 そうですね。今まではいろんなライブハウスを転々としながら、当日に入って30分で音をつくって、はい本番という感じだったんですが、音響もそうだし、照明も自分たちで時間をかけてつくれるようになりました。細かな部分にもこだわれるようになったなと思っています。

矢津 面白いですね。場所を持つことで、バンドのオリジナルをちゃんと設定することができたと。

野口 そうなんですよ。オリジナルが定まったので、他のライブハウスでやるときはその差異を楽しめるようになった。このことは思ってもみなかった発見で。はじめてやるライブハウスでも、今までだったら「音が…」ってイジイジしてたんだけど(笑)、今は、いろんな場所とつきあいやすくなりました。

矢津 kumagusukuの場合は、僕がそこで作品を制作するわけじゃないので、ちょっと違いますけど、宿泊施設として社会に対して開かれているから、その結果、アーティストだけやってたら聞かなかったようないろんな話が飛びこんでくるようになりました。もちろん、それがkumagusukuの良さ、面白さなんですけど、あまりそこに触れすぎると、アーティストとしての自分が見失われる感じもするんです。

野口 ですよね。明らかにチャンネルが違うことですよね。

矢津 そうそう。だから、意識的に自分のチャンネルに戻って、作品を制作しないと、いつも人当たりよく笑っていることになってしまう。自分の中の負の側面だとか、言葉にならない部分に向き合ってつくるのが、作品だと思っているので。

社会性を持ったアートも最近はよく見かけますけど、矢津さんはそうではないと。

矢津 僕は、そこは分けたほうがやりやすい。お金の面でもkumagusukuとしてだったら、自然に動きやすいですね。

野口 社会への広がりは私たちも感じます。空間現代なんて、なかなか日の目を見ない音楽性とバンド名ですけど、外をつくったことでいろんな人と関わることになりますし、いろんな人の応援と協力がなければ成り立ちませんから。

矢津 僕の場合は、kumagusukuをつくってから、kumagusuku以外の場所でのプロデュースの話とかもすごく増えたんですよ。今までアートとの接点がなかった人たちから、アートの窓口にいる人だと見えてるみたいで。外と空間現代もこれからそうなっていく可能性はありますよ。

野口 まだその実感はないけど、そうなったらいいですね。そういえば、夏に子どもと一緒にワークショップをするという話はいただきました。以前でしたら、そんなことは考えられなかったので驚いています。

矢津 最近、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」ってアートが社会にどう関わっていくかという文脈のトークに僕を呼んでいただいたりして、自分の中ではそんなに意識はないんだけど、kumagusukuの活動について誰かがそう位置づけてくれるなら、それも面白いことになってきたなと思っています。

外に対するリアクションは何かありますか。

野口 周りのミュージシャン仲間や、もともと京都で活動されてる方々からどう思われるんだろうって心配してたところはあったんです。でも、思った以上に応援してもらえて、支えられてるなと思っています。感謝ですね。

京都へ移住して、会社を設立して、ライブハウスをはじめて、イベントを次々と企画して。その本気度合いは、当然伝わりますよ。

矢津 最近は、どんな土地でもやれるという感覚が広がってはいますけど、実際にそこまで実現する人はなかなかいませんから。

野口 なのかな。単純に「こういう場所持っていいなー」って反応じゃなかったのがうれしかったですね。私たちってほんとに友達がいないバンドだったんですよ。音楽シーンをつくったわけでもないし、いつでもアウェイだし。でも、自分たちの場所を持つといろんな人と関わって、いろんな人が来てくれるからほんとにうれしい。「おおっ、おつかれさまです!」って握手したりして。

アート業界からの反応って、矢津さんはどうですか。

矢津 よく冷やかされますけどね、「よう、ホテル王!」って。

野口 それは僕も言われますよ、「おお、オーナー!」って(笑)。

知り合いなら一度は言いたくなりますよね。ちなみに、kumagusukuは2号店の話も進んでいるとか。

矢津 kumagusukuが完成した数カ月後には、場所も何も決まってない段階から次やるとしたら…って話をチームを組んで、はじめてたんですよ。そこに、地元の企業さんが収益マンションを建てる予定だった土地を、宿泊施設へと計画を変えたいという話が来て、今、進めているところです。土地を持ってる人にとっても、収益マンションを建てるというのは、少し後ろめたい気持ちがあるみたいなんですね。その土地で、街に対して何か貢献したいという思いの部分から、kumagusukuのような文化的なことをやってみようという動機づけが生まれるんだと思います。

野口 すごいですね。

矢津 不動産が絡むと、億単位の大きな話になるので大変ですけど、再開発や街づくりのメンバーとしてアーティストが参加してることだけでも面白いじゃないですか。必ずしも直接的にアートの話にならなくてもいい。アーティストとしての考えや意見を伝えられたら、もっと面白いものが生まれると思うので。

撮影:表恒匡

文:竹内厚 現場スケッチ:タケウマ
(2017年7月3日掲載)


〈ちょっとひと言〉
kumagusuku2号店は「洞窟」がテーマだとか。しかも、映像スタジオも同居して、映像プロダクション的な動きも予定。アートホステルという形をとりながら、見たことのない場となりそう。なお、さまざまな伝統工芸を建物に仕込んだ1号店も、とても挑戦的な場づくりがなされている。展覧会やイベント期間であれば、宿泊客でなくても中に入ることができるので是非。

KYOYO ART HOSTEL kumagusuku
https://kumagusuku.info

https://soto-kyoto.jp


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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