10. 包丁だけでいい

緑さんの料理作りの原点は、友人から結婚祝いにもらった「自家製 天然酵母のパンづくり」の本。
それまでは、カロリーメイトやポテチが食事でも大丈夫というほど食にこだわりがなかったそうだが、結婚後、お金がなく本を頼りに見よう見まねで天然酵母から作ってみたところ…
緑:レーズンだけで作れる、めっちゃ安上がり!バターとかも選んで本格的なパンが作れるんだったら、これは素晴らしい。
と、どんどん料理にのめり込むことに。
私が出会った料理店店主たちは、かなりの割合で、小さい頃から何かしら料理に対する興味がある人が多かった。
緑さんの場合、それがまったくなかった希有な人。
でもその反動か、のめり込み方がすごかった。
緑:パン作りにはまり出した頃に、知り合いから20年くらい前の電気オーブンをもらって、それで石を入れたり、水を入れたり試行錯誤しつつも、パチパチっていうフランスパンが作れるようにまでなって。 次には本格的なガスオーブンが欲しくなったんです。
火のまわりのいいガスオーブンを手に入れて、パンを作ってみたところ、途端に上手く作れなくなってしまったそう。
道具のせいというわけではないだろうが、これまで、足らないところを自分の工夫で補ってきたものが、道具だけですべてをやってくれると思いきや、まさかの失敗。
それで、パン作りを止めてしまった。
結局のところ、緑さんはもともと工夫の余地があるから好きだったのだろう。
自分が介入できる余地。それは道具に頼り切らないことかもしれない。
緑さんはこんなことも言っていた。
緑:包丁だけでいいなぁって。
→11. 今、作りたい料理とはへつづく