西尾:もちろん上下運動が生まれるってのもあると思うんですよ、画面上の。上から物を落とすとか。
清原:階段をそんなに意識的に撮ってたわけではないんですけど、考えてみるとやっぱり家の中に高さがある、家という空間に高さがあるってすごい不思議だな、面白いなーって。だけど、高さがあることは普段意識しないじゃないですか。2階のフロアにいるとしたら、そこが自分にとっての地面になる。でも、下にいる人を見たり、下にいる人が上を見たりできる空間が階段で、その上と下を意識する場所ということにすごく惹かれるのかなって。
西尾:ここでも「確固たる世界があると信じることへの違和感」ですね。2階にいながら1階にも空間があるんだとわからせたいっていう欲望。
清原:そうですね。今の話を聞いて思ったのは、やっぱり別々に生きてるものがおなじ空間に存在するのってある意味、1階と2階で別の暮らしが平行してるような感じにすごく似てるなぁって。まったく別の動きを1階と2階の住人がしていたとしても、音も聞こえてくるし、影響しあう、干渉しあってる感じがあるのかな。
西尾:まさに『わたしたちの家』がそうですね。このSF的な「平行世界」っていう考え方。確かに団地や長屋風のモルタル住宅っていうのは、平行世界が並んでいるみたいな感じにも思えます。
清原:マンションも同じなんでしょうけども、団地ってさらに一戸一戸が全部同じ形に仕切られていて、その一戸一戸に世界がある、みたいなイメージ。団地ってほんとにマルチバース(多宇宙)みたいですね。
西尾:マルチバース(笑)。
清原:巨大空間みたいな、そんなイメージが団地にありますね。だから『ひとつのバガテル』でも団地中にいろんな部屋があって、つながっていっちゃうんだって思ってました、団地を撮るって思いついた時は。
西尾:「マルチバース」という言葉を使われましたけど、いろんな人がそこに住んでいるのが視覚化されやすいのは、マンションよりも団地やモルタル長屋の方かな。凸凹していて等間隔に並んでいる感じ。
清原:団地はほんとにいいですよね。住んでみたいです。
<清原惟監督がベルリンで見つけた気になる住まい>
静かな住宅街にある、ちょっとボロいけど味のある団地。1戸ずつ色が違ってかわいい。どの色に住むか悩んでみたい。
ベランダ代わりに、外に出っぱっているガラス張りの部屋が、小箱の中のミニチュアの部屋みたいでおもしろい。椅子があったり、鏡があったり、鉢植えが置いてあったり。ここでお茶してみたい。
<取材後記>
静かな、でも力強い語り口から明晰な言葉がどんどん飛び出す。決して決めつけず、一つ一つ立ち止まっては丁寧に考えたり疑問に思ったりする監督の姿は、映画の主人公の少女と重なった。
『わたしたちの家』という一本の映画の話題のはずが、建築や、哲学、ホラーの話題もあったり、SF用語が飛び出したりと、まさに《フーガ》的なインタビューとなった。
取材・文:西尾孔志
(2018年3月12日掲載)
『わたしたちの家』
公開は大阪・第七芸術劇場3/10(土)~
→https://www.faderbyheadz.com/ourhouse.html