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  • お年寄り×若者で 「次世代下宿」 岸本千佳(不動産プランナー)

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「若者は宝」だとよく言うが、同じくらい「お年寄りも宝」。私はそう思っている。特に京都においては。


まず若者からみると、京都の学生数は、人口比では全国トップという学生の街。ただそれだけではなく、名門(であり変人も多い)京都大学をはじめ、芸大や伝統ある私大も多く、漫然と大学生活を送っているというよりも、何かに懸命になって生きている学生が山ほどいる。そして、関西圏からだけでなく「京都に憧れて」はるばる上京する若者もあまたいる。学生だけでない、職人の見習いをしながらアルバイトで生計を立てるという若者までいるのだ。
しかし、彼らの大半は、どこにでもあるワンルームに住み、どこにでもあるようなバイト先で働き、リアル京都を知らないまま4年間を終え、外に就職してしまう。少なくとも、私の大学時代のバイト先(ジャンカラ)の人はほとんどがそうだったことをよく覚えている。


一方、お年寄りはというと、とにかくエネルギーに溢れている。自分でお商売をしていて、生涯現役の方も多い。地元のまちづくりも先頭に立っているのが定年以上の方だったり。街を歩けば、きちんとおしゃれをして自転車を軽快に飛ばしていたり。私が仲良しの95歳のおじいちゃんなんか、「年寄りはなぁ…」と自分がお年寄りにカウントされていない始末。彼らの多くは、夫婦かひとりで暮らしており、家は部屋がたくさんあっても使っているのは一室だけ。京都の街中の町家などでは、2階が丸々空いているなんてこともざらだ。


そんな学生とお年寄りは、京都においてはまさに宝、かけがえのない資産だ。そして先述の通り、その宝にふさわしい住まい方が現在のところ無く、それを担えるしくみづくりを考えている。


それが、お年寄りの一室に若者が暮らす「次世代下宿」というしくみだ。上京してきた大学生が2階に住んで、千枚漬けを漬けられるようになり、おばあちゃんはおばあちゃんで、孫とやり取りするためのLINEも教えてもらったりして。祇園祭で粽売りに若い子が手伝ってくれたら助かるかもしれない。どう考えても素敵なストーリーじゃないか。つまりは、お年寄りにとったら、人が一緒に住んでくれるだけで安全だし、話し相手ができて楽しい。おまけにちょっとお小遣いも入る。若者からすると、古い文化や京都らしい伝統を実際に暮らしながら経験できる。個人の関係性が、結果的には祭りやしきたりといったこの街が大切にしてきた資産を守ることにもなる。


空き室をうまく使えるというハード面はもちろん、若者とお年寄り双方の心情にもハマるしくみなのではないかと考えている。空き家問題と言うと、たいてい暗くふさぎ込みがちだけど、こういう、悲観的ではなく、個人にとっても世の中にとってもハッピーな暮らしを、私自身もずっとつくりたかったのだった。


個人宅という深いプライベートに入りこむゆえ、これをイチ不動産屋(しかも私のような得体の知れない)が始めても怪しいだけで、取り組める余地がなかったのだが、今回お年寄りに抜群に信頼のある京都府と協働して行えることとなり、進められることとなった。


ひと通りこの話をすると、ほとんどの人が「いいね。うちもやりたい」と言ってくれるのだが、実際手を挙げてくれるかと聞けば話は別だ。ましてやここは京都、事例がないと動かない様子見文化なので、なんとか数件でも事例をつくって形づくることに奮闘している。


発展形として、学生を介護・福祉系学生に特定し、その専門分野のある大学と介護事業者と連携して、街全体でお年寄り見守ることで、皆にとって有益で上手く回るしくみがつくれないかと、現在並行して可能性を探っている。街ぐるみで次世代下宿の必然性が高まると、「あったらいい」から「なくてはならない」存在となり得るからだ。
現に、先進的なパリでは、この2パターンで取り組みがなされている。「パリ・ソリデール」という団体では、12年で3000組もの実績がある。ただ、居住環境や経済情勢も異なるのでパリを京都にそのまま踏襲するわけにはいかず、京都には京都にハマるモデルが必要となる。まだ京都もままならないのに、すでに中山間地域からうちでもやりたいとお声がかかるが、それはそれでまた違うモデルが必要とされるだろう。


といったように、事業化へのハードルは相当高く道のりは険しいが、それぞれの立場での強みを生かしながら、次の時代の暮らし方の文化をつくるために、乗り越えていきたい。


岸本千佳
1985年京都生まれ。建築を学んだ後、東京の不動産ベンチャーに勤務、2014年より京都に戻り、addSPICEを設立。不動産の企画・仲介・管理を行う。改装可能物件サイト「DIYP」など、不動産の有効活用の立場から、豊かな暮らしを提案中。著書に『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q)。

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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