大阪を拠点に、アジア各地のカルチャーを取材したウェブサイト「Offshore」をつくっている山本さん、なぜだか突然、沖縄へ引っ越しました。沖縄のナマな借り暮らし事情をレポートいただきます。
尼崎市出身32歳独り身。沖縄県那覇市に引っ越して3ヶ月。高温多湿のこの地では、いろんな違いや発見があって驚く毎日。尼崎の人間がいきなり南の島の都会に居を移すと、どんなことに驚くのか、少し紹介したいと思う。
(どうでもいいけど、尼崎出身の同世代は尼から尼に引っ越すパターンが多い。尼の実家から出て、尼で一人暮らし。私も昔、尼to尼をやっていたクチである。尼は大阪まで30分もあれば余裕で着くし、便利で、家賃も安い)
まず、ネットで目星を付けた那覇市の不動産屋に数軒行ってみたところ、不動産屋の営業がドライで驚いた。関西での物件探しは、しつこいセールスとの戦いが大変。すぐに契約しないとあかん雰囲気に持っていかれる。しかし、那覇の不動産屋は全然セールストークを繰り広げてこない。「大丈夫か、この人ら。こんなやる気なくて、契約取れてんの?」とまで思った。内覧に行ったら直帰させてくれるのは当たり前。事務所に戻らされて「今契約しないと、他の人に取られるかもしれませんよ~」とか言われることも皆無。関西人であるこちらが逆に焦って、「こんな良い部屋すぐ取られますよね?」「いつまでに振り込めばいいですか~?」などと弱気丸出しで、すぐにとある部屋を契約した。
ワンルーム、共益費込み、光ネット付きで36,500円。いたって快適。
窓から見えるのは、オーシャン・ビュー、ならぬ、ビルディング・ビュー。窓から見える風景が尼崎や大阪とあまり変わらないことは、私にとって重要なポイントである。部屋におったら大阪気分、ぐらいのほうがホームシックにならなくて良い。この部屋で仕事しながら、radikoで大阪のAMやFMを聴く。聴こえてくるのは関西弁。関西におるんとまったく変わらん!
風呂は、ユニットバス。沖縄では少数派らしい。沖縄の古い住居で最も多いバスルームは、タイル貼りのひと部屋にトイレとシャワーが設置された、アジアのホステルによくあるあのタイプ。湯船はないパターンが多い。なぜなら、沖縄の人は風呂に浸かる習慣がないから。確かに、この高温多湿の島では風呂という言葉も聞きたくない。そういえば、内地では子供がお風呂に浸かって100まで数える、みたいな慣習がある。このあいだ、同じ職場で働く二児の父であるウチナンチュに聞いてみると、「沖縄ではやらないねえ。だって100も数えるなんて大変。僕も出来ないと思う」とのことだった。
家電は最小限。1ヶ月ぐらい前まで、冷蔵庫もなかった。近所に24時間営業のスーパーマーケット「りうぼう」があるから、このスーパーマーケットを冷蔵庫代わりに、と思っていたが、さすがに、暑い沖縄では冷えたオリオンビールをすぐに飲めないことは辛い。それに、野菜を家に置いて半日ほど外出して帰宅したら、見事に腐る事件が多数発生。冷蔵庫は、要る。
しかし洗濯機は絶対買わないと心に決めている。歩いて3分ほどのコインランドリーには業務用洗濯機があり、1回200円。週一で月800円と考えれば、安いもんでしょう。
そもそも、私がなぜこの物件をすぐ決めたかと言うと、3分歩いたところにハードコアな飲み屋街があるからだ。おそらく沖縄県内で一番濃度の高い「栄町市場」。昼の顔は八百屋や魚屋、肉屋が並ぶ市場であり、夜の顔はどコアな飲み屋街。大阪出身沖縄在住の某リノベ会社の社長に、「ここなあ、沖縄の、天満やで!」と言われて以前連れてきてもらったことがあった。確かに、私の愛する大阪の飲み屋街、天満に似た匂いがぷんぷんする。ここで一人で飲み歩けば、沖縄の面白い人らと友達になれるやろう!と思った。が、ちょっと違った。
沖縄の人は、あまり一人でしっぽり飲むことがない。一人で来るときはだいたい常連客として迎え入れてもらえる店であり、私のようなナイチャー(内地人)、しかもたまに大学生ぐらいに間違えられる風貌だと、ものすごく目立つのだ。一人客仲間が他にいないと、ビビって店に入れない私は小心者。それでも最近は、毎夜出没する“中島らも”みたいなウチナンチュの濃いぃオジサンに仲良くしてもらえるようになり、週1ぐらいはこの市場でオジサンを探して一緒に飲む。シマ(泡盛)を片手に、アジアや沖縄の文化について語り合う。無論、私はナイチャー。だいたい次の日は二日酔い。
みんなが憧れる沖縄ライフはそんなに容易いものじゃないけれど、3ヶ月経ってやっとぼんやり見えてきたことも沢山ある。東京のように、なんでもかんでも情報がメディアや雑誌に載っていない沖縄では、自分の嗅覚と直感が頼り。私がアジアの各地を歩いて変な音楽家や変なスペースを探してきた経験とまさしく一緒。そして、一人繋がれば数珠繋がり。
そういえば、私が今までずっと拠点として活動してきた大阪だって、「大阪、何があるのかよくわからないんだよね」と、よく東京の人から言われる。パッと見、わからへんぐらいが、面白いんとちゃいますかね。ネットも使って足でも稼ぐ。まだまだ知らん沖縄があるかと思うと、この先、猛烈に忙しいんやろうなあ……。
山本佳奈子(Offshore主宰)
1983年生まれ、尼崎市出身。那覇市在住。沖縄県文化振興会所属。一人でコツコツ運営しているweb-zine「Offshore(https://www.offshore-mcc.net/)」では、アジア各地の現在進行形の音楽(ノイズや即興、極端な音楽に偏りがち)や、カルチャーを自らの足で調査し発信。アジアにまつわるイベントの企画制作やコーディネイトも行なう。現在は、韓国音楽ドキュメンタリー映画『パーティー51』上映&ライブツアーの企画制作に没頭中。