驚異の個人雑誌『趣味と実益』を発行されている平山亜佐子さん。現在、ブログでは、木嶋佳苗を取り巻く膨大なネット情報を集約されるなど、その興味の矛先と徹底性にはシビれるばかりです。そんな平山さんに「借り暮らし」をテーマにコラムを依頼したところ、お金の話が到着。お金って何なのか、まっすぐ向き合った先で思いがけない答えを知らされました。
シェアでつながる信頼の樹
最近、とてつもないインフレ率で知られるジンバブエの公式通貨ドルが廃止になり、回収されるというニュースが話題になった。
といっても、昨日まで通用していたお金が突然無価値になったり、物々交換の社会になるわけではない。
数年前から政府が規制緩和していたアメリカのドルや南アフリカのランドに取って代わるという。日本の場合、国の通貨が消滅する事態はさすがに想像しにくいが、それでもこんなニュースに触れるとあらためてお金ってなんだろうと考えるきっかけになる。
わたしたちはお金について、持つとか貯めるとか欲しいとか言う。
けれど、実は紙幣や硬貨はわたしたちが自由にしていい、その他の持ち物と同じではない。
とくに硬貨は、勝手に溶かして原料に戻す(鋳潰す)ことを禁じる貨幣損傷等取締法によって所有権が制限されている。
ではお金は自分のものではないのかといえばそうではなく、お金の「価値」は自分のものだ。
つまり、「価値」の象徴がお金だ。
わたしたちが日々お金と交換するのは、技術やサービスやモノ。
だから「価値」とは、技術やサービスやモノに対する信頼と言い換えることができる。さらにいえば人から自分への信頼、または自分から相手への信頼、そしてもちろん国への信頼をも意味する。
信頼の塊がお金なのだ。
わたしたちがお金をもらうとき、人から信頼され、感謝されている。
わたしたちがお金を使うとき、人を信頼し、感謝している。
わたしたちは、お互いの技術やサービスに感謝してそれらをシェアしている。
水や食べ物をシェアし合わないと地球上で生きていけないのと同じ。
樹の幹から枝が伸び、葉が繁るようにひとりひとりが繋がっているのだ。
そう考えると、この世界が少し素敵に見えてくるから不思議だ。
ひとりで暮らしている人もひとりではない、隣りの家の人とも、街ですれ違う見知らぬ人とも、日々信頼をシェアしていることを意識しながら生活することは、実は大事なことなのではないかと思うこのごろである。
平山亜佐子
挿話蒐集家/デザイナー/音楽家。著書に『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』。唄のユニット「2525稼業」主宰。『純粋個人雑誌 趣味と実益』発行中。新著準備中です。
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