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父、おとうさん、パパ、親父……
その後ろ姿から
家族と住まいのことを見つめます。
ベベチオのはやせさんによる父さん話。

うちの家の隣りに矢野のおばちゃんとおじちゃんという家族が住んでました。うちとはタイプが違うというとおかしいけど、二人の娘さんのいる普通のご家族。父さんが酒を飲みはじめると「矢野さんとこも呼んでみい」って、窓越しに大きい声で言うもんやから、よく矢野さん家族が家へ来てくれて、うちの父さん、母さんと一緒に飲んでました。どういう理由か知らないけど、カラオケのマイクとスピーカーだけがうちにあって、父さんがマイクを握って歌い出したりのまねごとをしながら、よく宴会みたいなことをやってました。とりたててなんにも起こらない、そんなただの飲み会の間も、父さんは部屋の片隅に三脚を立てて、よくビデオを回しっぱなしにしてました。とにかくタバコをよく吸うので後から見返しても、真っ白な煙のなか、ときどき上半身ハダカの父さんがちらっと映るくらいで、なんのために撮影していたのか、その理由がよくわからない。ただただ撮るのが好きやったんかな。
そのビデオテープを後に見直してみると、映像の切れ目になると、スケッチブックを持った父さんが登場するんです。スケッチブックには「あの人」とか簡単なタイトルが書いてあったから、父さんなりにアナログなビデオ編集をやってたんだと思いますが、驚いたのは、その同じビデオのなかに、どこか知らないおばさんと父さんのベッドシーンを撮った映像も時々入っていて。そのときのタイトルだけは、なんかの文学的な言い回しだった記憶がある…。
父さんが亡くなってから、母さんにその話をしてみたことがあります。だけど、母さんは「アホか、あれは父さんとちゃうわ!」って断言。あまりにもその言い方が強かったので、自分の見間違いかと思ってビデオテープを見直してみたら、やっぱりそれは父さんにしか見えない。そのときのマニアックなカメラワークも脳裏に焼きついています。
父さんは、今の僕と比べてみても、ビデオや写真をよほどたくさん撮っていました。ほとんど見返すこともないのに。「撮るんは絶対に撮っておいたほうがいい」なんて言いながら。たぶん、こうやって息子が振りかえるときがいつかくるだろうってわかってたのかな。


早瀬直久
音楽ユニット ベベチオのボーカル&ギター。暮らしをもっと盛り上げる企画チーム「ragumo」の代表も。5月26日に裏なんば、27日に京丹波でライブがあります。靴買おうか思ってます~。
http://ragumo.jp

イラスト:ちえちひろ 構成:たけうちあつし

  

<これからの予告>
03 ファミコン

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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