2. キッチンの窓
マルクス・ヴェルンハルトさんは、ドイツの文化機関で日本ではドイツ文化センターとも呼ばれる、ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川の館長を務めている。マルクスさんとえり子さんご夫妻の自宅は、そのヴィラ鴨川の最上階。
そこでは年に数回、ホームパーティが開かれていて、ひょんなことから、私はそのパーティに呼ばれることがあった。たくさんの手料理が次々とテーブルに運ばれていたが、その時はキッチンを拝見することはかなわず。そこで今回、平日の昼にあらためてご自宅を訪ねた。
パーティの日とはまるで違う、静かな日常の雰囲気になった室内。パーティの日は靴のままで上がらせてもらったが、この日はエントランスでスリッパに履き替えた。エントランスの左手にある白い扉を開けると、そこがキッチン。シンクの向こうには、鴨川と川端通を一望できる、大きな窓があった。
えり子:この家のキッチンにはじめて入ったときに、この窓があれば、他は文句を言わないって思いました(笑)。この窓からの景色は、今まで暮らしてきた住宅の中でも群を抜いてます。もっと立派なシステムキッチンの住宅にも暮らしたけれど、この窓があることでこの住まいが一番かもしれない。
マルクス:朝、フルーツを切ったりするときに、窓から川端通をよく見ているんです。2車線ある通りだけど、ほとんど右の車線にしか車が並ばない。左の車線はとても空いてるのに。これは、日本の社会の縮図じゃないかな。右に倣えというような(笑)。
マルクスさんの話は、ささやかな笑い話だけれども、確かにこの家のキッチンの窓は、いろんなことを考えさせる余地があるように思える。それは、ここのキッチンが他の部屋とは扉で区切られた、中とも外とも言えないパティオのような空間だからかもしれない。
→3. オリジナルの糠酵素へつづく