旭堂小二三さん(上方女流講談師)
団地のひとインタビュー 016
住吉さんの気配を感じる、情緒ある街
女流講談師として活躍されている旭堂小二三さん。実は、「住吉さん」が登場する『碁石』を独演会で読んだことが評価され、2015年文化庁芸術祭の新人賞を受賞されました。ちょうど、「住吉さん」にお礼をしようと考えていたことと重なり、まさしくベストタイミング。早速、南海本線の住吉大社前で待ち合わせることにしました。
旭堂小二三さん(きょくどう・こふみ)
上方女流講談師。OL・俳優を経て2001年7月、旭堂小南陵(現四代目/旭堂南陵)に入門。MBSスペシャルドラマ「聖夜想曲」、NHK BSドラマ「地を這う虫」、Vシネマ「極道の二号たち」などドラマ・VP・CMに出演。テレビ大阪「大阪情報箱(BOX)」、NHK「かんさい特集」や「ぐるっと関西おひるまえ」に出演。2015年文化庁芸術祭新人賞を受賞。
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情緒にあふれる街には魅力がありますね
文化庁芸術祭の新人賞受賞、おめでとうございます。
旭堂:ありがとうございます。お礼参りに行こうと考えていたのですが、なかなか時間がとれなかったので、ちょっとお参りしてもいいですか?
ちんちん電車の線路を渡り、鳥居をくぐり、住吉大社のシンボル「太鼓橋」へ。国宝に指定されている4つの本殿それぞれにお参りをされた旭堂さんは、最後に恋みくじをひかれていました。
旭堂さんにとって、住吉大社さんは身近な存在なのでしょうか?
旭堂:そうですね、講談の古典にもよく出てきますし、私の師匠がつくった『碁石』にも「住吉さん」が出てきます。そこには、「住吉さん」周辺の住民の姿が表現され土地への愛着があり、若い女性が出てきたのも、今の時代に合っていて評価されたのでしょうね。ですから、ものすごく親しみの深い場所ですし、昔ながらの独自の文化が息づいている場所。そんなふうに感じています。
講談の魅力を教えてください。
旭堂:講談は、落語と並ぶ2大話芸です。落語はおおむね会話を中心とした話芸ですが、講談は物語を読むように、まるで見てきたかのように話し伝えます。私は、できるだけ多くの人に物語の中に入ってもらい、世界に浸ってもらえるように日々アレンジしています。気持ちが入りすぎて返事をしたり、話し出すお客様もいたりして、そういう時は充実感も沸いてきます。
臨場感が大切なのですね。
旭堂:はい、そうですね。講談師は必ず着物を着て、身振り手振り、声の調子や話し方でライブ感を演出します。若い方が多い時は、わかりやすいように説明を長くしたり、お年寄りが多ければ情緒を大切にしたり。講談は、聞いてくださる人の表情を見ながら読んでいくコミュニケーションですから、本当に難しいですね。
若い人にも、人気があるのですか。
旭堂:いいえ、お年寄りに人気が高いので、もっと若い方にも聞いていただき講談師を目指す後輩を増やしたいと思っています。もっと若者に親しんでもらい、次世代につなげていくために、若い人たちがイメージしやすい話をつくり、寄席も変えていく時期が近づいているように思います。
住吉大社から住吉公園を抜けたところで、住吉団地が見えてきました。
旭堂:ああ、学校みたいですね。ここには、若い方はたくさん住んでいるのですか?
URの賃貸団地全体では、比較的に若い世代も住んでいると思いますが、やはりご高齢の方もたくさん住んでおられます。
旭堂:団地には、人の営みがあって素晴らしいのですが、私はどうしても仕事柄か、歴史を考えてしまいます。大昔は、このあたりは海辺だったと思いますし、近代には新田が広がっていました。戦後は、大阪の発展に寄り添うように都市化が進み、それでも、「住吉さん」は住民に親しまれながら鎮座しておられる。そういう歴史ある場所であることを、もっと誇りにしてもいいと思います。
初めてこの団地にいらっしゃって、どんな雰囲気を感じますか?
旭堂:ご高齢の方もお住まいだからか、穏やかだと思います。若い世代や働く世代ばかりのコミュニティでは、日々の暮らしの中で人のつながりが薄れてしまうように思いますが、ご高齢の方がいらっしゃることで、輪が広がるように思います。最近では、暮らし方も多様化しているので、人と人のつながりを生かしながら、住まう方々の心が調和できるといいと思います。
個人や家族がどのように暮らしていきたいか? そこが重要なのでしょうか?
旭堂:たとえば、地域とのかかわりを大切に考えている若いご夫妻や、利便性が高く自然環境も大切にしたいという人、とにかく静かでゆったりと過ごしたいという人、それぞれに優先順位があります。住吉団地は、働きながら便利に、でも休日はのんびり暮らしたいという人には、歴史や情緒があって交通も便利な環境なので、おすすめだと思います。
ありがとうございます。団地を歩かれて気づいたことはありますか?
旭堂:とにかく掃除が行き届いてきれいですね。それに、建物を詳しく見ていくと、いろいろな工夫があったり、興味をそそるデザインがされていたり。普段の生活では気にならない小さなことが、ゆっくり見渡すと見えてきます。そこに情緒を感じられると豊かな暮らしができそうです。
住吉団地の魅力をもっと高める秘訣をお願いします。
旭堂:ここは、「住吉さん」のような歴史と文化が育んでいる街の中にあって、都会の利便性も高いので、若い人があこがれるライフスタイルのお手本になるのではないかと思います。それは、さまざまな世代が住める、ちょうどいい距離感のプライバシーを保ちながら、素敵なコミュニティを築くことにもなると思います。ご高齢の方や若い方が共存できる住みやすい場所は、いつの時代もみなさんが求めているのではないでしょうか。私の親しみやすい場所だからこそ、そのように共生していける場所になってほしいですね。
古典的な伝統、そこに育まれる日本の歴史、伝統と歴史が育まれ長年にわたり人々に親しまれてきた住吉さん。そこに整備された住吉団地には、「人々の営みがあり、暮らしがあり、便利さがあります。社会が、コミュニティを大切にし始めている時代だからこそ、大都会に寄り添う住吉団地には利点もたくさんあるように思いますね」と、旭堂さんが付け加えてくれました。みなさんも、ぜひ、一度、住吉さんの御参りに合わせて足を運んでください。