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富田団地アートカフェ①
1年半に及ぶフィールドワークを終えて、いよいよ本格的なプロジェクトが立ち上がりました。学生たちのアイデアがカタチになる第一弾は、大阪府高槻市を舞台とした『富田団地アートライフ2016』です。住民のみなさんと学生たちのコラボレーションの様子を紹介していきます。
~住民のみなさんに対し、学生たちがプレゼンテーション
大いに激励されるやいなや、すぐに準備を!と促される~
2015年12月9日、大阪芸術大学芸術計画学科の学生たちが授業を終えた足で富田団地にやってきました。目的は、学生たちが企画したアートプログラム「思い出の鯉のぼり」に協力してもらうためのプレゼンテーションです。立案者の学生たちが20ページにのぼる企画書を丁寧に説明していきます。じっと耳を傾ける住民代表の自治会のみなさん。説明をはじめて10分ぐらいした頃には、自治会のみなさんがうなずいたりメモをとったりしていました。
大阪芸術大学の学生たちが、富田団地自治会のみなさんにプレゼンテーションを行いました。
企画の趣旨に聞き入っていた自治会長の澁谷さんは、開口一番に 「すぐに動かないといかん」と一言。
思いもよらない展開に学生たちが目を丸くしていると、付け加えるように、 「学生のみなさんはやりたいという強い思いでわざわざここまできたのですよね。じゃあ、その思いに応えましょう。すぐにでも始めなければ春に間に合いませんよ」と激励。
学生たちも戸惑いながらも、快諾してくださったことに感謝していると、澁谷会長がゆっくりと話し始めました。
「学生のみなさんは若いのだから、まずはやってみることが大切です。もちろん、実施に至るまでには様々な困難があると思いますが、そんなことを言っていたら何もできません。困難を解決しながら目的を達成する。そのために、私たちは何でも協力しますよ」と、アドバイスをいただき、学生たちが安堵していると、自治会のみなさんからは具体的な質問が出てきました。
「いつまでに何をするのか」、「どんな方法でするのか」、「どんな布がいいのか」、……。
学生たちが、意思決定の速い自治会のみなさんに圧倒されながら、実施に向けた具体的な話し合いが行われました。
鯉のぼりをつくるための布集めや裁断や縫製ができる方を集めるために、富田団地の自治会で発行されている『しらさぎ1月号』に告知。富田団地の「思い出の鯉のぼり」づくりプロジェクトがスタートしました。
「思い出の鯉のぼり」フライヤー
学生たち立案の企画書
〜鯉のぼりづくりを伝えるアートカフェ〜
富田団地は、自治会が中心となり一年を通して様々なイベントが開催されています。1月10日には、正月の松飾りやしめ縄などを一か所に集めて燃やす火祭り行事の「とんど焼き」が行われました。その時がチャンスと、「思い出の鯉のぼり」の認知度を上げるために、年末年始返上で学生たちがアートカフェを準備。温かいコーヒーや鯉のぼり型のクッキーを振舞いながら、アートプログラムの実施に向けた取り組みを住民のみなさんに説明しました。
当日、学生たちは大学に朝7時過ぎに集合。8時半に富田団地に到着し、とんど焼きの準備に追われる自治会のみなさんに協力していただきながら、アートカフェの準備に奔走しました。10時前にとんど焼きに火が入ると、どんどん住民のみなさんが集まってきます。
アートカフェの準備から運営までを学生たちが行いました。
「おはようございます。大阪芸術大学の学生です。鯉のぼりの……」と3人そろって出かけてきた女性たちに声をかけると、「ああ、知ってる知ってる。学生さんやろ。『しらさぎ』に書いてあったな。そんでなにするん?」と聞かれ、プロジェクトの説明を一生懸命する学生。
「そうか、そうか。今日するんか?」とか、「鯉のぼりはどこでつくるん?」とか、イベントの趣旨を伝える難しさにも直面しながら、住民のみなさんの温かい心に触れて、学生たちからも笑顔があふれていました。
右下: とんどの火で地元の竹を曲げ、鯉のぼりの口をつくる芸通・美術学科生の大地さん(高槻市出身)
〜学生のやる気を起こした、様々な出会い〜
20分もすると、コーヒーを配るテーブルに行列ができはじめました。隣のテーブル席にも、学生と熱心に話し込む住民のみなさんが肩を寄せています。
学生の話を聞いて、早くも思い出たっぷりの布を持ってきてくださる人や、大切にされている写真を持ってきて説明してくださる人など、学生たちの一生懸命な姿に共感してくださっている様子でした。
コーヒーなどやクッキーを振舞いながらイベントの告知。「このクッキーおいしい」と好評でした。
そのうちに、小学生ぐらいの子どもたちもたくさん集まってきました。
「鯉のぼりのクッキーおいしいよ」と子どもたちの口コミパワーで、お母さんたちを呼んでくれました。
テントの横に設置した大きな布は、富田団地にお住いのみなさまをはじめ、大阪芸大、URのメンバーが力を合わせ、三位一体となり、火の力で鯉のぼりの図像を描くためのものです。聖なるとんど焼きの炎から線香に火を移し、子どたち、お父さんとお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんも参加して一つ一つ穴をあけ、作品を完成させる共同制作は大変盛り上がりました。
太陽の光に透けて、鮮明に浮かび上がる鯉のぼりの図柄を見た女性から、「これにライトの光を透過させたらすごくきれいよね」とアイデアをいただき、富田団地の住民のみなさんと学生たちの絆を深める“シンボルフラッグ”となりました。
学生たちは、「大芸大を卒業した先輩に会えました。ここに住んでいるそうで、これからも協力するよ」と励まされ、想像以上の盛況ぶりに、安心と嬉しさ、実施に向けた覚悟を感じていました。
「若い人たちは、元気で活発で、馬力があっていい」と、自治会長の澁谷さん。住民のみなさんからも、「若い方がいるだけで、団地がにぎやかに感じます。こういう取り組みはどんどんしてほしいですね」と、賛同する声を寄せてくれました。
鯉のぼりの模様を写した布に、とんどの炎を写した線香で穴をあけました。
アートプロジェクトを指導している大阪芸術大学芸術計画学科の谷悟先生は、「『鯉のぼりづくりをやってみたい』というお話を住民のみなさまからお聞きすることができ、大変うれしく思っています。また、富田団地には本学のOB、OGが住んでいることがわかり、強力なサポーターを見つけた気分です。ここで暮らす素晴らしい方々と協働するかたちで、様々なアートプログラムができるようになれば、この団地に存在する潜在的なパワーは、必ずや引き出され、新たな活力が漲る可能性があります。また、世代を超えた大きな輪が広がり、ユニークなコミュニティが形成されはじめることが期待されます。そこにアートの役割があると考えています」 と語られました。
2月に予定されているアートカフェ第2弾に向けた課題とその解決、『思い出の鯉のぼり』づくりの成功をとんど焼きの炎に託し、住民のみなさんと学生の交流が始まりました。
撮影:長谷川朋也