2018.03.10
団地のひとインタビュー 007
with
梅林秀行(京都高低差崖会)
02 ニュータウンの原風景
洛西口駅からゆるやかな坂道をのぼってきました。梅林さんに教わった樫原断層、その裾野くらいまではたどり着いたはず。この断層崖を越えた先に洛西ニュータウンがあります。
01 はこちら
大阪層群/息が上がる府道/ため池/水利権と暗渠/駅から20m
―竹林が増えてきました。
梅林:断層崖の竹林。ここは「大阪層群」という、地質学の教科書には必ず出てくる地層ですけど、人間がこのあたりに住む前に何十万年単位のスケールで海がここらへんまで押し寄せて、引いてを繰り返していたです。その海底だった時代の粘土が堆積してできた地層。このボロボロとした成分の土を竹が好むんですよ。
土井:「竹の径」という散策路も整備されています。
梅林:そっちに向かってもいいんだけど、文化財巡りになっちゃうんですよ。今日はニュータウンに行きたいので。
土井:行きましょう!
―ここからは、4車線の府道に戻ってニュータウンを目指します。歩くのは大変な急勾配。
梅林:車の交通量が多いですね。ニュータウンの問題のひとつとして、通過交通が多いことが白書などで挙げられてますね。
―国道9号線から京都縦貫道に続く道でもあります。完全に車道で、あまり歩く雰囲気ではないですね。
土井:ここの坂、高校生くらいだと自転車でも越えられるんでしょうけど、やっぱりかなり大変。
梅林:断層崖の上に住むというのが気分がよかった時代が確かにあったんです。だけど、2018年の今、この坂はキツい。息が切れる(笑)。
―ため池が見えてきました。
梅林:大阪の千里、東京の多摩、名古屋の高蔵寺、ニュータウンといえばため池なんですよね。
―それって理由がありますか。
梅林:断層崖は川よりも高いところにあるので、農業用水をどう確保するのかという問題が生じます。そこで、谷からの湧き水をせき止めるなどして、ため池をつくっていくんです。いわばニュータウン開発前の農村風景ですね。
―この土地を暮らせる場所にしていくために。
梅林:そう。だから、ニュータウンの原風景ですよ。プレ・ニュータウン。これをどう取り込むかがニュータウンの個性じゃないでしょうか。
土井:まさに、そうですね。
―親水公園になってるところもあるけど、金網ががっちり張り巡らされたため池もよく見かけます。
土井:安全面を考えると、閉鎖される方向なんです。洛西ニュータウン内では、一度閉鎖した歴史があって、その後また人が入れるような場所にしようという動きもあります。あと、ため池というのはもともと農業用水なので水利権の問題もあって、結構、複雑なんです。
―自然の地形じゃないからこそ、権利が錯綜してることもあると。
土井:そういった用水が暗渠になって、団地の下を通ってる場合もあるんです。その道筋を変えるとかになれば、これもかなり大変。
―ため池そのものだけじゃなく、目に見えない暗渠のことまで調整が必要なんですね。
土井:だから、慌ててつくったニュータウンなんかだと、青線と呼ばれる水路、赤線の里道が昔のまま地図にのこっていて、そこを開発し直そうとするとかなりの調整が必要になります。
梅林:そういう場所って、無理が生じて道が迂回してたりするので、歩いてる方からすれば、面白みがあるんですけどね。
―府道を振り返ってみると、さすがに洛西口駅がはるか遠くに見えます。
梅林:京都盆地の形がよくわかりますね。盆地の向こう側にも花折断層から続く桃山断層が見えます。
―東西を断層崖に囲まれたのが京都盆地。
梅林:神社の鳥居が見えてきた。ここらが昔の集落のヘリでしょうね。これより上に人は住めなかった。明治45年の地図で確認すると、ここに道はなくて、ずっと竹やぶ。今、ちょうど樫原断層の真上あたりですね。地図の等高線を見るとよくわかるけど、やっぱりここは山じゃなくて、テーブルのように平らになっています。
―少しずつ地面が隆起してきたということですか。
梅林:洛西口駅が標高19mで、ここが39.5mだから。20m上がりましたね。ということは、仮にマグニチュード7クラスの地震で大きくズレた、1度に2m隆起したとして、そのクラスの大地震が1万年に1回あるとしたら、たった10万年でこんなに隆起したんですね。
―たった10万年という梅林さんの尺度が人間を超えてますね。
採土の斜面/竹やぶのミルフィーユ/海成粘土の活用差/凹地のニュータウン
梅林:採土してるのかな、絶賛、切り土中ですね。あー、あの粘土、触りたい。
―採土してる斜面のことですか。
梅林:そう。子どもの頃、あれを触りにいくと、ものすごく叱られました。もう眼の色変えてね。
土井:全然、安定してない土地だから危ないですよ。
梅林:そうなんですけどね、でも、触りたい!
―子どもの頃から、地層に興味があったんですか。
梅林:知識はないんだけど、不思議な風景じゃないですか。地層が露出して、色が変わってたりするから。触りたくなるでしょ。
―当然でしょみたいに言われても(笑)。で、府道の左右がまた竹やぶに。ちょっと中まで入れそうですね。行ってみましょうか。
土井:竹やぶ内は、ふかふかの地面ですね。
梅林:客土といって、粘土の上に稲わらを敷いて、またその上に粘土を盛ってという風に、土を仕上げていくんですよ。土、ワラ、土、ワラと層状のミルフィーユになってるのが確認できますね。で、この粘土が大阪層群の海成粘土。ぼろぼろと崩れる、もろい土です。
―その粘土を竹が好むんですね。
梅林:そうです。京都盆地の反対側、深草のあたりも同じで、海成粘土層があります。
―地球スケールで見ると、基本的に同じ地層なんですね。すり鉢の西と東。
梅林:こっちは竹を資源として供給してきましたけど、向こうは粘土の方を活用して、伏見人形や瓦などの産業が育つことになりました。
土井:なるほど。都市部との距離の関係なんですかね。
梅林:でしょうね。京都から伏見の側は住宅需要が歴史的に多い場所なので。生産と消費の関係。だから、こっちの竹は資源という感じがします。
土井:府道からちょっと入っただけで別天地。竹が密集してると迫力があるんだけど、ここは気持ちいいですね。
梅林:自分も子どもの頃、名古屋のニュータウンに住んでたので、近くに竹やぶがあってタケノコを掘ってましたよ。
―梅林さん、ニュータウン育ちでしたか!
梅林:団地ではなく新興住宅ですけど。友人は団地住まいも多かったな。
―府道に戻りましょう。京都市の看板が見えてきましたよ。
梅林:ここまでが向日市の西に張り出していた部分で、ここから先は京都市西京区。いよいよ、洛西ニュータウンです。
―空気自体も一気に変わりましたね。
梅林:変わりました。ロードサイドの郊外とはまた違った、日本の普遍的な感じ。いやぁ、非常になつかしい感じがする(笑)。
―洛西口駅前ともまた空気が違って。
土井:戦後の住宅整備は、公営住宅法に基づいて進められてきましたけど、県境や市境がどうしても最後に残ってくるんですね。そこで、行政区域をまたいで開発できるように、日本住宅公団が誕生しました。なので、URの団地は行政区域を横断する場所にあることが少なくありません。
梅林:なるほど。断層崖の間の凹地に生まれたニュータウンなので、視野がコンパクト。奥行きに西山というアイストップもある。ちょっと器に入ったような感覚ですね。千里、多摩、横浜の青葉台にも似ています。西山が雄大だなぁ。借景があるニュータウンだ。
土井:東京の高島平なんかとは全然違いますね。
梅林:そうですね。名古屋のニュータウンとはちょっと似ています。
土井:私が普段、足を運ぶのはこのニュータウンからなので、その手前の高低差を全然意識できてなかったですね。
―大きな坂を越えてたどり着いた感じがしますね。
→ 梅林さんとの「さんかつ03 古墳と団地とセーヌ川!?」
ついに目の前に姿を表した洛西ニュータウン。下から歩いて上がってくると「大ボス登場!」の感じがあります。現在地は、境谷本通と府道205号の交差点。ここからニュータウンへと入っていくわけですが、次に目指したのは…なんと遺跡!詳細は次回をお楽しみに。