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父、おとうさん、パパ、親父……
その後ろ姿から
家族と住まいのことを見つめます。
ベベチオのはやせさんによる父さん話。

父さんがある時期、焼き肉にハマってた時期がありました。焼き肉といっても、家の食卓でやるんじゃなくて、玄関の横にあった小さなガレージで焼き肉をやるんです。そんな焼き肉の日は、近所にあった「たまき」という焼肉屋に、タレだけ買いに行かされてました。本当はタレだけなんか売ってくれないんだけど、ご近所のよしみでビニール袋にタレを詰めてくれて、代わりに、タレ代のお金とタバコ1カートンを渡して、家にタマキのタレを持って帰ってくるという。
父さんはもともと食が細くて、全然食べないんです。だから、焼き肉といっても、タレをちょろちょろっと舐めてみて、「やっぱり、このタレがうまい」って言うばかり。ガレージで肉を焼いてるから、通りすがりの人がちらちらと見る。そしたら父さん、「兄ちゃんもちょっと食べえ」って声をかける。近所の人からただ家の前を歩いてただけの人にまで、とにかく誰にでも焼き肉を勧めるんです。焼き肉が食べたいというよりも、みんなに肉を振る舞いたかったんですね。
といっても、下町情緒あふれる町に住んでたとかじゃない。全然そんな雰囲気のある町じゃないのに、近所の人に焼き肉を振る舞って、多いときにはガレージをはみ出すくらい、20人くらい集まってたかな。もう、ちょっとしたフェスみたいな騒ぎ。母さんも人に何かを振る舞うことは嫌いじゃなかったので、そんな日は、いい肉を10キロとか買ってました。途中で肉が足りなくなることのないように。僕が小学4年から6年生くらいの間は、その振る舞い焼き肉のブームが父さんの中で続いてたから、その頃は「焼き肉しよか」って父さんから言われたら、家の中なのかガレージなのかがわからず、「今日はどっちの焼き肉?」って聞いたりしてました。


早瀬直久
音楽ユニット「ベベチオ」のボーカル&ギター。暮らしをもっと盛り上げる企画チーム「ragumo」の代表も。
年末にクラシックホールで半生音でコンサートします。
○12/28(金) ベベチオclassicコンサート「みつめ」@宝塚ベガホール
熟してきました。 http://ragumo.jp

イラスト:ちえちひろ 構成:たけうちあつし

  

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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