津村 『空から日本を見てみよう』って、日本を空撮で映して気になるところを見に行くというテレビ番組が大好きで、その番組に出てくる「くもじい」というキャラクターも三角形の建物が好きで、あったら必ず見に行くんですよね。

大竹 その言葉、とても共感します。

津村 ですよね。私は、この三角形の角にある部屋にずっといたい。

大竹 でしょ、三角形の家でも、真ん中の部屋にはあまり惹かれなくて、角の突端に関心が集中しますよね。

津村 やっぱりそうなりますね。

大竹 で、どうして三角形に惹かれるのだろうってよく考えるんですけど、つまり、道を歩いていて三角形の家があったら、その突端の部屋から外の風景がどう見えるだろうってことを想像しちゃうんですよ。

津村 なるほど。

大竹 それと、三角形の家って入り口を二辺の両側にふたつつくることがよくあるんです。外出するときに、どっちから出ようかなって考えるなんて、楽しそうじゃない?

津村 どっちから出るか考える、それ面白いですね。

大竹 もしその三角形の家が、斜面に建ってるともっと面白いことになって、こっちのドアから出たら1階で、向こうのドアから出ると2階、とか。

津村 この話(「月を吸う」)に出てくる家も、斜面に建ってる家ですよね。部屋から外に出てまずやるのが階段を上ることで、それがヘンだと思うって小説の中でも書かれてました。

「月を吸う」の間取り図 図:たけなみゆうこ

大竹 この家についてちょっと説明しますと、谷間の崖面に建てられた集合住宅で、屋上部分と道路がブリッジでつながっていて、階段を1階分降りると住居のフロアになるんです。だから、住人が外出するときも、ゴミ捨てでも、まず階段を上がっていく。ふつう家を出るときは階段を降りるけど、この家は逆さまで、そこがポイントです。

津村 私が加賀温泉に行ったときに、こういうホテルに泊まりました。5階がロビーで、4、3、2階と下がったところに客室があって、1階で川を見ながら温泉に入れるんです。建物に入ってから下がっていくっていうのは、たまらないですね。それを思い出して、この斜面の家に私も住みたいと思いました。

大竹 実はこれ、私の自宅なんです。

  

津村 えっ、うらやましい!

大竹 屋上から入るっていう構造に魅了されて、おんぼろマンションなんだけど、どうしても引っ越せない。それで、やっぱりこのマンションに住んでるのは変人ばかりなんです(笑)。

津村 いいじゃないですか。

大竹 ふつうの家族持ちは、とってもじゃないけど住めない! 実はこのマンション、1階からも出られるんです。路地を抜けていくと下の道に出られるわけ。帰ってくる方向によっては、路地を通って下から入ってきたほうが近かったりするんだけど、それでも私は必ず屋上の方へ回り道をして帰るんです。そのほうが気持ちがいいっていうか、面白いんですよ。

津村 幸せですよね。

大竹 帰宅が楽しい。

津村 1階じゃないところから建物に入るのっていいですよね。大竹さん、知ってはるかな。大阪の中津のあたりにも、淀川を渡る高架から直接入れる専門学校があるんですよ。私は、その学校に入ってみたい。高架から入って、地下に降りるような感覚で教室へ行くんかなって。どうでもいい話ですけど(笑)。

大竹 そこ、今度来たときにぜひ見学したいわ。下の道がどうなっているか気になるし。私は『随時見学可』という別の短編集で、崖面に建っていて、崖の上から橋を渡って部屋に入るという家のことを書きました。東京には結構、そういう家が多いんですよ。起伏の多くて、敷地が階段状になっているから。

津村 橋を渡って家へ。いいですね。けど、住んでたらうんざりしてくるもんかな。

大竹 いや、私は飽きないです(笑)。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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