大阪生まれ奈良在住。システムエンジニア、材木屋&建築設計と施工のキャリアを経て、現在は領域横断的デザインプロデュースを生業にする。2016年から大阪芸術大学デザイン学科の講師も務める。
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5月31日(木)
今朝はゆっくり、お昼前から事務所へ。「やすらぎの道」という通り沿いの、4階建ての小さなビル3階。窓の外には興福寺の五重塔と、その向こうに雨煙で霞んだ若草山が見える。そんな場所にあるここを借りてもうすぐ7年が経つ。もともとは僕が占有していたが、いつからか何人かで共有することが常になった。現在のシェアメンバーは4人。空間デザイナーで道具店も営むFくん、「遊び」をツールに福祉の現場などでのコミュニケーション・デザインを専門にするDちゃん、もとは大手都市銀行でシステム開発をしていたが今は企業研修の講師をやりながら町づくり事業など様々なことにもトライしているTくん、そして僕。みんなやっていることがバラバラで、一緒に仕事をすることもほぼないけれど、事務所に行って誰かに会えると、ただ嬉しい。ここで会う以外、みんな生きている世界が違う。働く時間も働き方もぜんぜん違う。だから、たまの会話が楽しい。そんな関係。しかし当然ではあるが、それぞれに異なる人生の旅の途中なので、別れも突然来る。Fくんが来月いっぱいでここを卒業することになった。山の方に新しい事務所兼作業場を見つけて、そこに移る。卒業式は、事務所で呑み会をしよう。Fくんの新たなステージでの活躍にみんなでワクワクしながら、新しいメンバーとの出会いを心待ちにしようと思う。
夕方、伸び放題になっていた髪を切りにいく。サッパリ。そのまま「ショウテンガイエイト」の会議へ。奈良市中心市街地にある8つの商店街の若手(?)たちが中心になって、商店街の魅力を演劇で伝えるプロジェクト。2014年に始まり、今年の秋で5回目の開催になる。演出家と一緒に自分たちで現状を取材し、毎回異なるテーマでオリジナル演劇をつくる。商店街の良いところだけでなく、外国人観光客の増加に沸く一方で進む後継者問題などにも光を当て、演劇を媒介にして商店街以外の人にも当事者として一緒に考えてもらおうというのがその狙い。前回は地元で町づくりを学ぶ大学生たちも出演してくれたりして、おおいに盛り上がった。今年はどうなるか? まだまだ見えないけど、見えないからこそおもしろい。
6月1日(金)
5時半に起床。今日は下御門商店街、月に一度の大掃除の日。坂道の商店街なので、水を流すとお隣の店先が汚れてしまう。ならば、みんな一緒に…と始まって20年。それから毎月最終土曜日の朝7時からの恒例行事となっていて、僕もここにカフェを開いた7年前から参加している。しかし今回は月初めの金曜日。今日は椿明神祭があるので、その日に合わせて特別に日程をずらしての掃除だった。この商店街がある場所は、もともとすぐ近くの世界遺産・元興寺の境内で門があった場所。かつてその門の近くには井戸があり、そこに祀られていたのが椿明神さん。時は流れて井戸はなくなったが、年に一度だけ町内の人たちが集まってお祭りをしている。町会長さんの家に保管してある祠を出して組み立て、近くの神社の神主さんにお祓いしてもらい、町の人ひとりひとりが玉串をお供えしていく。終わったらその場で、ちょっとした直会が開かれる。ただそれだけの小さなお祭り。でも、これがとても楽しい。終わった後の直会で、ふだんあまり顔を合わせない人と、平日のお昼前から柿の葉寿司とビールで、何でもない日常のことから町の歴史や未来のことについてなどいろいろ語り合ったりすることはもちろん、お祭りの設えをみんなであーだこーだ言いながらやるのが、なんとも楽しい。一年に一度だけ、それに担当班が毎年変わるので仕方ないのだが、お世辞にも段取りが良いとは言えない。いや、単刀直入に言って、かなり悪い。「確かこれは右に置くはず」「いや、左やったかも」「これを先に出して、これが後で」「いやいや、去年は逆やったで」「あれ? あの、ほら、こんな形したやつどこいった?」とか。そのやりとりひとつひとつが面倒臭くて、本当に愛おしい。ここで「図解の手順書のようなものをつくればそんな問題なんて一瞬で解決するじゃん」、なんて野暮なことを言ってはいけない。そりゃその方がわかりやすく、迷いなく準備や後片付けは捗るだろう。しかしここで大切なのは効率ではなく、「面倒臭い付き合い」なのだ。「こうや」「いや違う、こうや」「え、そうか?」「いや、わからん」という、こんなやりとりこそ宝物。それを無くしてしまったら、一年に一度のせっかくのお祭りが本当に味気ない時間になってしまう。果ては祭りなんて面倒なこと自体なくなってしまうのではないか、とさえ思う。この商店街も高齢化が進んでいる。後継者問題は本当に深刻だ。椿明神を、その他の諸々を後世に繋いでいこうとするなら、わかりやすいイラスト入りのマニュアルもつくらないといけない時期が、思っているよりもすぐに来るのかもしれない。学生とか若い人を巻き込んで、この町の素晴らしさを再発見するワークショップなんかもやっていいだろう。これからどんどん増える空き店舗に、移住者や起業家と呼ばれるトレンディな人たちを積極的に招き入れる取組みもアリな気はする。でもなー、と思うのだ。コミュニティなんて、そうそう簡単にデザインできるものではない。
6月2日(土)
寝室にトップライトがある。その上をカラスが歩く「カツカツカツ」という音で目が覚める。真っ黒なカラスのおかげで、その後ろの空がより青く見える。快晴。
午前中は歯医者へ。虫歯の治療が終わり、今日は仕上げのクリーニング。終わってから、事務所近くのサイゼリヤへ。来週の講演のスライドがまだできていない。今日は気分を変えて、ここに篭って仕上げてやる…と思ったが、まったく進まず。ちょっと呑んだら勢いがつくかもとワインを注文してみるが、余計にダメだった。やっぱり直前にならないと気合が入らない。この性格は小学校の頃からずっとそう。もうそろそろ、自分のことをわかってあげないといけないなあと思う。「自然」は「自(おの)ずと然(しか)る」と書く。つまりそれは、どうしようもなくありのままであるということ。「自然に生きたい」なんてよく言うけど、「生きたい」などと思わなくても、もとから人は「自然」なのだ。それを何とかしてコントロールしようとするよりも、ダメなところも含めて受け入れ、自然な自分とどう付き合うかを考える方が「らしく」あれるのかもしれないなあ…なんて思う、もうすぐ50歳。
2018年4月1日にスタートしたリレー日記です。1週間単位でさまざまな方に暮らしの日記を執筆いただいています。