• TOP
  • OURSアーカイブ
  • 永野宗典×諏訪雅(ヨーロッパ企画)とヨーロッパハウスの話 #1 どんどん活動領域を拡大、人の家ですけど

永野宗典×諏訪雅(ヨーロッパ企画)
とヨーロッパハウスの話

#

1998年、同志社大学の演劇サークルからスタートした劇団「ヨーロッパ企画」は、今や全国に知られた人気劇団。その活動拠点は今も変わらず京都にあり、築100年を超える京町家にして「ヨーロッパハウス」と呼ばれている。

ヨーロッパハウスは、劇団を主宰する上田誠さんのご実家にして、現役の製菓工場であり、劇団の事務所兼稽古場、TV番組の撮影スタジオ、さらには来客を迎えるゲストハウス的な一面まで兼ね備えた、ひとつの空間がものすごくいろんな役割を担っている場所。そこで出迎えてくれたのは、ヨーロッパ企画の旗揚げメンバーの諏訪雅さん、永野宗典さん。

劇団の多彩な活動の根っこに、ヨーロッパハウスという「場」がいかに作用しているのか。ヨーロッパハウス内の「はなれ」と呼ばれている事務所スペースで、ふたりに話を伺いました。


ヨーロッパ企画
1998年、同志社大学の演劇サークル内で発足。一貫して群像コメディにこだわり、今や東京、大阪をはじめ日本各地で公演を行う京都発の人気劇団。SFやゲームの要素をモチーフとしたファンタジックな設定を得意とし、壮大さの中で描かれる何気ない日常の会話劇とのギャップでニヤリとさせる。近年はそのユニークな発想力を活かし、テレビ、ラジオ、WEB、雑誌媒体での企画・制作、さらに映画祭など自主イベントの企画・運営までを手掛けている。

20160121_018

左が永野宗典さん、右が諏訪雅さん

#1 どんどん活動領域を拡大、人の家ですけど

劇団主宰・上田誠さんのご実家である上田製菓の工場と劇団は、どのように共存しているのですか。

永野:僕らは工場の空きスペースを主に間借りしています。(表通りに面した建物の)「旧2階」と呼んでいるスペースは、もともとラスク工場で働いていた従業員さんの住み込み部屋だった場所。そこを自分たちで改装を重ねて、今は会議室などに使っています。

諏訪:工場の規模縮小に伴って空いた部屋を、学生の頃から上田君がわりと自由に使っていて。ゲーム部屋にしたり、女の子と一緒に遊んだり。僕らが自由に出入りし始めると、たまに鍵がかかっているときがあって、あ、今はダメなんだなと。

永野:リアルだね(笑)。

諏訪:ワハハハ、昔の話ですよ。

先ほど拝見したときには、その旧2階でTV番組を収録していましたね。(『ヨーロッパ企画の暗い旅』(KBS京都テレビ・毎週土曜24:30~25:00)

20160121_009

旧2階での収録風景。手前左は番組の企画・構成も手掛ける上田誠さん(ヨーロッパ企画主宰)

永野:あの番組の収録はだいたいヨーロッパハウスを使っていますよ。

そもそも、劇団が今のように堂々とした間借りをはじめたきっかけは何でしょう。

諏訪:同志社大学の学生は2-3回生になると、京田辺から今出川にキャンパスが移るんですね。そのタイミングで今出川の近くに引越し先を探していたメンバーの石田(剛太)君に、上田君が「離れが空いているから、そこを使えばいいよ」と貸したのが始まり。そこから、みんなが遊びにくるようになって。ちょうど劇団の旗揚げぐらいの時期なので、間借りしてかれこれ17年ぐらいか…。むちゃくちゃ居心地よかったですからね。上田くんのご両親が、缶ジュースとかカップラーメンとかを買って置いといてくれるんです。ここにいれば一生生きていける! と思ってました(笑)。

永野:息子同然というか、学生だったし可愛がってもらって。それに甘えて、結構ずるずるとパラサイトしてますね(笑)。石田君はその後、ちゃんと家を見つけて引っ越しするんですけど、ここに集まる習慣だけは残った。

諏訪:僕も実家が奈良なので、家まで帰るのが面倒なのでよくここに泊まっていました。

20160121_175

取材したこの日も工場には上田誠さんのお母さんによるこんな心遣いが!

大学には演劇サークルの部室もありますよね。

諏訪:部室はあったんですが倉庫みたいなかんじで。ヨーロッパ単独の部屋でもなかったし、大学にもだんだん行かなくなって。

永野:そういう意味では、ここが部室みたいな感じでしたね。その後、劇団の資料やパソコンを置いてチラシを作ったり、会議をしたり、だんだんとオフィスのようになってきました。

具体的にはヨーロッパハウスにはどんなスペースがあるんでしょう。

永野:「はなれ」が事務所、「旧2階」は会議や稽古、撮影、打ち上げまで行うフリースペース。そして、工場の一番隅っこにある「新2階」が映像編集部屋、通称“黒木部屋”(映像担当・黒木正浩の名前から)です。

20160121_059

ヨーロッパ企画のパンフレット「ヨロッパ通信」でもヨーロッパハウス内部の特集が組まれたことも

細分化されてますね。

諏訪:ぼくら、どんどん人の家で活動を広げていったんですよ(笑)。「はなれ」から侵食して旧2階を使わせてもらって、いよいよ部屋が足りないとなったときに、上田君のご両親が「ここどうや」と天井の板をバン! と外して。工場の一番隅っこの天井を開けると、長年開かずの間だった部屋があったんですよ!

永野:上田君もずっと気になっていたみたいですよ。庭に長い梯子が置いてあるけど、これは何に使うんだろう? と。それがようやくつながった。

諏訪:一応、倉庫として使われていたその部屋を僕らがDIYで防音も施して、使えるようにしました。舞台美術担当の酒井(善史)君を中心に、舞台セットでそういう作業も慣れてますから。それが「新2階」。

ちなみに、いま聞き流しそうになりましたが、ここで打ち上げもされるんですね。

諏訪:50人ぐらい来る大きなものになると、工場スペースも借り切って打ち上げしますね。吉田さん(ヨーロッパ企画が所属する会社の代表兼マネージャー・吉田和睦)が企画した去年の飲み会の設計図がありますけど、庭から工場内に流しそうめんを通したりとか、かなり楽しく使わせてもらってます。

これ、サマソニとかの夏フェスの会場見取り図みたいになってますよ!

18-5

飲み会設計図がこれだ!ヨーロッパ企画のウェブサイト内ページ「ヨーロッパ企画の京都案内所」に掲載
https://www.europe-studio.net/kyoto-annai/18.html

諏訪:そうかもしれない(笑)。庭と工場を使ってバーベキュー、流しそうめん、氷の彫刻ライブアート、怪談ばなしなどを催して、疲れた人は「旧2階」で寝て。僕はかき氷の担当でした。

永野:やりたい放題ですね、借りぐらしにもほどがある! もともと遊び場からじんわりと仕事場に侵食していったので、仕事もするしリラックスできる空間でもある。

20160121_170

ラスクを袋詰めする上田さんのお母さん

諏訪:前に「旧2階」に知らない猫がソファに座っていたことがあって、あの時は怖かった。

さすがに知らない人がいたことは…。

永野:ずいぶん昔に芝居を見て興奮したお客さんが次の日の早朝から、感想を伝えに来たことがあって。

諏訪:工場内に入ろうとして、普通に上田君のおっちゃんに怒られました、「お前、誰や!」と。そりゃそうだ。

永野:知らない人が来たということで、そのときは上田君も何か猟奇的な想像をして、週刊少年ジャンプを腹に仕込んで対応したそうです(笑)。

20160121_199

上田製菓の工場事務所

文:石橋法子 写真:有本真紀 編集:竹内厚

*ヨーロッパ企画
本公演以外にもさまざまなイベント、企画が目白押し!
https://www.europe-kikaku.com/

忘れないでください、お菓子工場として現役で稼動もしている場所ですよ。劇団と工場と実家の不思議な共存ぶりにさらに迫ります。
#2 ヨーロッパハウスのささやかなルール


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

NEW ARTICLES
/ 新着記事
RELATED ARTICLES
/ おすすめの関連記事
近くのまちの団地
住まい情報へ