アサダワタル(日常編集家)

#3 借りパクが持ちうる可能性。

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「OURS.」では、賃貸や借り暮らしのよさを見直していきたいと考えていますが、それについて何かご意見いただけますか。

アサダ:賃貸だからこそ生まれる文化、みたいな話ですよね。あえて言わせていただくと、賃貸だからこそ、とか、賃貸じゃなければできないことを見つけるのって難しいと思うんですよ。
家を買うか、賃貸でいくか、その選択はあると思いますけど、それ以外のときに、世の中のひとが賃貸だからこれができるよなって考えることはほぼないでしょう。
たとえば、カーシェアでもレンタルCDでも、貸し借りをする場面で考えることって、「必要なときだけ使えるからいい」「お金がかからないよね」という利便性や経済性ですよね。そうじゃなくて、貸し借りだからこそ面白いって何なのか。僕もまだその答えにはたどりつけていない。

「買うよりも得」以外のところで、貸し借りのよさを見出だすことができれば、面白くなると思うのですが。

そういうケーススタディがたくさん集められたら、きっと面白いメディアになるでしょうね。
たとえば、「Airbnb」*みたいなサービスって、貸し借りの経済性の話を抜きにしても、面白いといえる領域に入ってきてると思います。便利だからというよりも、むしろ、他人の部屋を使わせてもらうという体験を楽しみにしてるようなところがありますよね。

そうですね。「Airbnb」は世界中の空き部屋をシェアするようなサイト、他にも「カウチサーフィン」など、類似のサイトがいくつもあります。

前に住んでた人がどう暮らしていたか、みたいな家の履歴を楽しむことができるかどうかですよね、きっと。
うちの家は、猫OKなんですが、代々住んでたひとが猫を飼っていたみたいで、柱のひっかき傷とかも引っ越してきたときにはすでにありました。そんな些細なことでも、家の歴史、履歴になっていく。

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新築ではありえないことです。

家を買うってことで言えば、新築と中古でも分かれますよね。
以前、『住宅』という冊子で「中古住宅の創造的転用」という特集テーマで書かせてもらったことがあるんですけど、中古住宅には、過去の履歴があるからこそ楽しめることがあるという話を、DJの感覚にたとえて文章を書きました。
もともとある曲をDJがつないでいくことで、1曲1曲がまったく違う意味を持ちはじめるように、貸し借りで蓄積された履歴をみんなが眺めて楽しむことができればと。
それって、普段は誰も気に留めずに流れていくものですけど、「痕跡本」が注目されるような流れもありますよね。

古本にのこされた痕跡を愛でる「痕跡本」は、貸し借りではありませんが、確かに「履歴を楽しむ」方向ですね。

僕は、2012年に借りパクCDを集めた展覧会をやったことがあります(『KPPL 借りパクプレイリスト』@アートコートギャラリー)*。
借りたまま返せなくなったCDを100枚集めて、誰から借りたか、どうして返せなくなったかのエピソードを取材して、1枚1枚にポップを貼って、試聴機で聴けるように展示しました。
たとえば、同じ小沢健二の「LIFE」というCDでも、当たり前ですけど、それぞれの思い入れや付随するエピソードは全然違っているので、そうすると、同じ楽曲でも聴こえ方がまったく変わってくるんです。

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借りパク=借りたままパクる(返していない)ものって、誰にでもひとつくらいはあります。

そう。あるんだけど、わざわざ言語化されるようなことでもなかったので、やってみたんです。
展示では、貸したまま返ってこなくなったCDのエピソードも同時に募集して、すると、1枚だけビンゴしたのがありました。つまり、借りパクしたものと、されたものが同じベルベット・アンダーグラウンドのCDだった。せっかくなので、そのふたりを引き合わせるというイベントもやりました。

それまではまったく知り合いじゃないふたりなんですよね。

名前だけはお互い知っていたようですが、友人ではない間柄でした。かたやお世話になったバイト先の店長から借りて、バイトをやめて返せなくなったと。もう一方は、昔つきあっていた彼女に貸したら返ってこなくなったという状況で、手元には1枚のベルベット・アンダーグラウンドのCDがあるよね、と。だから、もうこの人に返したらって。

貸し借りの四角関係、ややこしい!

まあ、これはあくまでも儀式的にやった遊びですけどね。
借りパクCDの展示をやったことで、「これ知ってる?」って教えてもらったのが、この本(『Cassette From My Ex Stories and Soundtracks of Lost Loves』)で。
これは、元カノや元カレからもらったミックステープとその曲リストを全部公開するというもので、テープに書かれたメッセージなんかもそのまま載っています。もとはブログで話題になったものらしいんですけど。

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私的なミックステープだけとっても面白いものですけど、そこに元カレ元カノという恋愛模様が入ってくると、さらに興味がそそられます。

僕はやっぱり、貸し借りにおいて、個人の主体がはっきり関わってくるところに面白さを感じてるんですね。

*「Airbnb」日本語版サイト
https://www.airbnb.jp/
* KPPL 借りパクプレイリストについてのアサダワタルブログ
http://yrecord.exblog.jp/16328507/

#4 決断しないことにだって価値がある。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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