トットリ的カリグラシのススメ
赤井あずみ(鳥取県立博物館/キュレーター)
鳥取市内の複数の賃貸物件を借りて、いろんな使い方をしている赤井さん。
「プロジェクトスペース ことめや」を後にして、最近その1室を借り始めたという洋館「樗谿グランアパート」へ場所を移し、ひきつづきお話をお伺いしました。
#1 はこちら
#2 物件って可能性の塊なんですよ
瓦屋根の洋館。和洋折衷でおもしろい建物ですね。もとは個人宅?
赤井:1930年に病院として設計されたものだそうです。戦後は進駐軍の宿舎として増築され、今のかたちになったと聞いてます。長い間空き家だったんですけど、地域で愛されている建物だから残したいという声があがって、去年、市の文化財に指定されました。今は保存会が中心になって、復原や活用の方法を探しているという状況。
じゃあ、その「活用」の一貫として、赤井さんも借りてる?
赤井:そうですね、2階にある洋室を。でも、今回は友だちと5人で借りることにしました。
5人? シェアオフィスみたいに使うんですか。
赤井:どう使うかはまだ決めてないんだけど、お店をやろうかと話してます。たとえば、いろんな人が旅先で買ってきたものを売るお店とか。あと、私は家に足踏みミシンがあるので、それを持ってこようかな。そしたらまたみんなできることも広がるかも。
この洋館も先の「ことめや」も歴史のある建物ですけど、物件の背景や文脈に惹かれて借りることは?
赤井:物件の文脈そのものに対するこだわりはあんまりないです。それよりは、今、自分の手元にある場所とは全然違う性質を持った物件に惹かれますね。
物件の性質というと?
赤井:部屋数とか広さとか立地とか……まあ、そこは何でもいいんですけど、とにかく今借りているのとは違う物件。というか、逆に同じような場所をいくつも借りたって意味ないでしょ。いろんな性質の場所があって、それぞれにチャンネルを変えて、そこで何をやるか考える。それはすごく楽しいことだし、可能性も広げてくれるように思います。旅先で買ってきたものを売るお店のアイデアも、別にずっとそれがしたかったとかではないけど、この場所を借りてみて「さて、何しよっか」って考えた時に出てきた。そう考えたら、物件って可能性の塊なんですよ、もちろんお金のことは別として(笑)。
あえて聞きますけど、不動産を買おうと思ったことは?
赤井:今のところないですね。単純にそんなお金がないって話もあるけど、やっぱり場所に縛られてしまうというか…。それはそれでいいと思うけど、むしろ、私はそこから逃げ続けていたい。基本的に変化をよしとするタイプというか。
玄関ホールの階段は、明治末にあった市内最古の病院から移設されたもの。
ちなみに2月から博物館の企画として、3人のアーティストが鳥取市と米子市の市街地で作品を展開するプロジェクトが始まるんですけど、この建物もその会場の一つになっています。
それは赤井さんがキュレーションを?
赤井:そうですね。この場所に関しては、もし興味があればくらいの感じで提案したところ、中ハシ克シゲさんというアーティストが興味を示してくれました。今、ちょうど制作の真っ最中なんですけど、ものすごく真摯に空間と向き合って、いろんなチャレンジもしてもらってます。
アーティストがインスピレーションを受けた場所と向き合いながら、そこで何かしらのアクションをおこすという点では、赤井さんがいろんな物件を借りてやっていることにも共通する部分があるように感じます。アートからの影響は大きいですか?
赤井:直接的な影響という意味ではちょっとわからないですけど、動機の部分では近いような気もします。つまり、アーティストが町に入っていく場合、そこに新しい視点も持ちこむことで何かしらの変化をもたらしたりするわけですけど、その入口は空間と向き合うことなんですね。私はアーティストではないけれど、やっぱり根本的に変化させたいという気持ちがあって、わりと自覚的に「場所なんか、思いつきでどんどん作れちゃうよねー」っていうことをやってるつもりですね。
鳥取市内の旧横田医院も、赤井さんが中心となって行っているアートプロジェクトの拠点のひとつ。
キュレーターという立場で言えば、もちろん美術館やギャラリーといった、いわゆるホワイトキューブでのプロジェクトもおもしろいけど、どうしても受け止められ方が閉鎖的になってしまうなとは感じています。アートが好きな人や業界の人にしか届かないというか、そういう人たちの社交の場になってしまう。私自身展覧会を企画する場合は、美術史の中でどう位置づけるかということをやるんですけど、それが、たとえば他の文脈からどう受け止められるかということが知りたい。その点では、やっぱり町の中でやるプロジェクトは魅力的だし、何より地に足がついている感じがしますね。