これからの公共空間=パブリックは自分でつくるべきだ。
大げさではあるけれど、それほど的外れでもないと思っている。
たとえば公園や広場には「○○を禁止する」といった看板が多すぎて、逆に何をしたらいいん? とツッコミを入れたくなる。ほとんど「公」に任せっきりで、何かあったときには管理責任を問われるのだから、行政が禁止事項を増やしたくなるのも分かる。
だけど自己責任の「共」の部分を少し増やして、自分たちでつくり変えてみると、パブリックにもっと自由で魅力的な場所が増えて、人もまちも変わっていく。
中学生と一緒に空き教室をリノベーションすることを通して、そんな少し出来すぎたストーリーのはじまりが見えたように思う。
楽しい場所をつくる上でなにより大切なことは、自ら関わって自らやってみることだ。やっているうちに熱中してきて、空き教室が変わるにつれて人も変わっていく。
はじめは遠慮がちだった生徒や大学生らは、徐々に笑顔が増えていく。自分から考えたり行動するようになり、熱中して細部にこだわりはじめ、愛着が湧いてきて、変なテンションになって「この色好きやなー!」とか「この塗り方完璧やろー」とか自慢合戦まで始まる。
何でもない場所に自分らしさが残って、空間に記憶が刻まれていく。思い出が増えて、その場所が好きになっていく。実家の柱に線を引いて成長の証を刻むみたいに。
生徒や先生や大学生らの手で、空き教室が色鮮やかな空間へと大きく変わった。
完成後に開催した見学会では、生徒と両親、地域住民、教育関係者、大正区長をはじめとする行政関係者など、いろんな立場の人が同じ空間に居合わせ、自然とこの場所の使い方についての話合いがはじまった。
「私はあの部屋を美術部の拠点とし、つかわないときはPTAや地域の方につかってもらいたい」(生徒)
「ここでPTAの会議をしたら盛り上がりそう。いつもよりいいアイデアが出そう!」(地域住民)
「この中学校に入学してくる2つの小学校の生徒が、入学前に黒板塗装した壁に先輩たちへのごあいさつメッセージを書いてもらうなんてのもいいかも」(先生)
「場所の色と同じ色の物を並べると、色んなジャンルの物が集まってきて楽しそう。行ったことをきっかけに興味が広がるかも!」(教育関係者)
だんだん話が熱を帯びてきて、思いもしなかった新しいアイデアがどんどん出てくる。それぞれの立場から出たアイデアを基に、今後は美術部の製作拠点を中心として、美術教室、美術作品の展示室、地域や地元小学生との交流拠点、会議室などにも使うことが予定されている。まだまだ使い方の可能性は増えていくだろう。
自分で考えたり作ったりした場所は愛着があるし綺麗に使いたいと思う。そこでの出来事を話したいとも思う。そしてその想いは他の人にも伝わっていって、これからの使い方を考え、柔軟に変えていく力になるのだと思う。
そこに暮らしているという意味では、家も学校もまちもどんなパブリックだって同じはずだ。
みんなが少しずつでも自分らしさを感じられたり当事者意識が芽生える場所、それがこれからのパブリックのあり方の1つだと思う。
誰かが決めて既にあるイマよりも、そのとき必要だったり、こうしたいという想いに合わせて少しずつつくり変える未来の方が明るい。だめならやり直せば良い、自分たちでつくるパブリック。これからは、そんな積極的楽観的姿勢が必要なのかもしれない。
西野雄一郎
賃貸住宅のセルフリノベを全国的に調査し、これを普及することに向けた研究を行う。UR都市機構、大阪市住まい公社、大阪市大正区、民間オーナーなどとのセルフリノベイベントの企画や実践を行うとともに、セルフリノベ賃貸の借家契約へのアドバイス、リノベの設計も行う。日本学術振興会・特別研究員。大阪市立大学大学院工学研究科・博士課程。