APartMENT-建築の枠を超えて

造船の町、大規模な工場地帯として栄えた大阪の北加賀屋。このエリアの約半分(!)の土地を所有するという千島土地株式会社が、「名村造船所跡地」をアートの実験場として再活用しはじめたのが2004年のこと。それをきっかけに周辺の空きアパートや空き家にもアーティストやクリエイターが集まる町として、注目が絶えないエリアになっている。

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例えば道中。空き地を再活用した「北加賀屋みんなのうえん」。
そんな一角に、新しい賃貸プロジェクトが巻き起こっている。それが、千島土地とリノベーション界のパイオニア的存在のアートアンドクラフトが手がける「APartMENT」。3/19にお披露目とあって、「借り暮らし」を探求しているOURS.も隅々まで観察。写真でレポートします。

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1971年、鉄工所の社宅として建てられた”団地っぽい外観”の建物。北側の8戸を舞台に、8組のアーティスト・クリエイターが”建築”の枠を超えてリノベーションする。各部屋の専有面積は約40平米。賃料は6万円代。共用部のリノベーションはアートアンドクラフト。ランドスケープデザインは素地(soji)。施主支給の「鋼矢板(こうやいた/川や湾の土止めに使われる)」を再利用した階段が迎えてくれる。  

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エントランスの木材は解体時に出た廃材を再利用。設計者自ら施工したそう。サイン・ロゴはUMA/design farm。
 

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203号室、現代美術作家・松延総司の「やすりの部屋」。壁のグレーのところ全部やすり!住み手が「やすられる」質感。賃料61,000円。
 

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204号室、照明デザイナー・NEW LIGHT POTTERYの”感覚に訴える光”の部屋。これら照明器具も家具も部屋とセットで貸し出される。賃料61,000円。
(3/22訂正:家具は付帯設備ではなく展示品でした。)
 

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303号室、現代美術作家・松本尚の”暮らす時間を通じて編まれた記憶”をテーマに描いた部屋。シルクスクリーンを使用。賃料63,000円。
 

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304号室、Rhizomatiks Architectureの「記憶の記録」部屋。最新のメディア・テクノロジーを駆使したクリエイティブ集団Rhizomatiks(ライゾマティクス)の建築チーム。室内に複数設置されたセンサーにより、室内での全行動が外付けのハードディスクに記録されていく。人間が覚えきれない何気ない時間を、家自体が”記憶保管”していく。気になるのがそのデータ量。ハードディスクは8TB。2年間分保管できるように、音声と映像の圧縮率を計算してプログラミングされているという。センサー、パソコン当然込みで賃料65,000円。
 

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205号室、電化製品デザイナー・電化美術×実験的な市民工房・FabLab Kitakagayaによるコンセントだらけの部屋。一つ置きに電気が通っている。電気が通っていないところには電化美術がデザインするフックなどを自由自在に設置。棚がすぐに作れたりするしくみになっている!3DプリンターはFabLabにて貸し出し。賃料63,000円。
 

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206号室、造園設計から施工・管理まで手がける兄弟ユニットGREEN SPACEの「住まいに内包される庭」部屋。奥の床は土間に。石をイメージして作られたウレタン製の椅子もセット。グリーンの水やりは住人で。賃料63,000円。
 

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305号室。家具から建築・ランドスケープまで手がけるスキーマ建築計画の”縦方向にいろんなものを引いた”部屋。「引く」ことで成立するデザイン。住人はもちろん「足して」よい。お好きにどうぞ。賃料65,000円。
 

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306号室。デザイナー・吉行良平の”それぞれに少しずつ今までと違う主張をさせていく”部屋。一見何事もないように思う風景。よくよく見ていくと何かがちょっと違う。”部屋を構成する要素”の再検証。奥深い一室。賃料65,000円。
 
8組8戸の風景でした。これはほんの一部。2時間まるまる探求しても足りないくらい。どれもこれも濃厚でしたが、これが結構どれも無理なく暮らしていけそうな、余白のある空間ばかり。どんな方でも、家族でも、借りて暮らせる賃貸物件。一般公開は3/21、3/26、3/27とあと3回開催。ぜひ目撃してみてほしい!

詳しくはこちらへ
APartMENT
https://apartment-kitakagaya.info/
*ここだけのトピック。これらの8戸のうち7戸の施工を裏側で支えていたのが大阪此花区の「POS建築観察設計研究所」。昨秋のアワーズカリグラシマガジン展でも展示施工面で強力に支えて頂いた。そんなPOSの代表・大川輝さんへのインタビューが実現。インタビューページ<THE BORROWERS>にて公開を予定しています。どうぞお楽しみに!

写真・文:平野愛

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